動画越しの執念 66
「そんなの……」
床へと目を逸らし口ごもる風音に、水沢さんは間髪入れることなく言葉を重ねてたたみ掛けていく。
『どうされましたか? 貴女が犯人でないのなら、どこの誰かもわからない他人の悪事が明るみになったところで、不利益は一つもないと思いますが。それとも何か、逡巡される理由があるのでしょうか?』
「…………」
これはもう間違いはなさそうだと、ここであたしにも確信が持てた。
風音は、あたしが抱えている問題に対して部外者ではない。
今目の前で見せている態度が、自分が当事者ですと白状してしまっている。
百歩譲って当事者ではなかったとしても、犯人を知る共犯者くらいのきな臭さはある。
『実はですね、たった今なんですけど、うちの従業員に頼んでアカリさんが投稿されている動画に書き込まれた中傷コメントに、返信をしてもらっています。少々お待ちくださ――あ、もうできた? 早いね。ああ、すみません。ちょうどコメントを打ち終えたそうで。今から送信してもらいます。アカリさん、風音さんのスマホに注意してみてください』
「え? スマホに?」
突然の指示に、あたしは慌てて風音のスマホを探そうと視線を彷徨わせたが、目で見える範囲にそれらしき物は見当たらない。
本人にスマホを出すよう伝えようかと、口を開きかけた瞬間、風音の部屋からピコンというスマホが何かを受信した音が聞こえた。
それとほぼ同時に、あたしのスマホから『送信しました!』という若い女の子の声が小さく漏れてくる。
恐らく、昨日静寂堂にいたあの同年代っぽい子の声だろう。
ありがとうと短く応じる水沢さんの声がして、それからまたあたしたち側へ向けての話を再開してきた。
『さて、たった今うちの優秀な従業員に頼んで、コメントへの返信を送信し終えました。アカリさんが投稿している最新の動画です。その動画に書き込まれた、一番上の誹謗中傷コメント。風音さん、そこに返信がついたはずです。そのことを知らせる通知が、ご自身のスマホに届いてはいませんか?』
目元を引き攣らせた風音の首が、背後――自分の部屋の中へと曲げられる。
「確かに、今部屋の中からスマホの音聞こえたよね? 風音、悪いけど何を受信した音だったのか、確かめさせてもらっても良い?」




