動画越しの執念 64
『美山風音さん。貴女は、お姉さんであるアカリさんのことを、どう思っていますか?』
「はぁ? どこの誰かもわかんない人に、何でそんなこと話さなくちゃいけないのよ。探偵とか言いましたけど、何かわたしのこと調べてるんで……」
文句を吐き出していた風音の声がピタリと止み、悪戯がばれた子供のような、ハッとした表情を浮かべ身体を強張らせる姿が、あたしの視界に映る。
『ふむ……。お姉さんの名前を出した瞬間に伝わってきたその気配。アカリさん、誠に残念ですが、私の予感は的中のようです』
「的中って……今の会話だけで、何かがわかったりするものなんですか?」
これが超能力、または霊能力というものなのか。
素人の自分にはよくわからないため、風音からは視線を外すことをしないまま、あたしは素直な疑問をスマホへと落とした。
『ええ、まぁ……一般的に霊視と呼ばれているものです。風音さんと会話をしながら風音さん個人の波長を読み取ってみた、といった感じなのですが、すみません、うまく伝わりませんよね』
「いえ、何となくなら、理屈はわかる気がします」
いつだったか、似たような設定で霊を退治する漫画を読んだことがある。
あくまでも漫画、フィクションだと割り切って読んでいたけれど、本当にリアルでもあり得ることなのかと、不思議な気分を味わう。
「あのさ、さっきから何の話をしてんの? てか、お姉ちゃん。まさか、その探偵って人に頼んで、わたしに何かしようとかしてる?」
苛ついた風音の声が、あたしたちの会話に割り込んだ。
『あ、これは失礼を。アカリさん、どうされます? 一応、依頼された内容に関して、原因は明確にできたのですが、ここで調査の方は終わりということにしておきますか? もう少しくらいでしたら、私の方でお手伝いすることもできますが』
調査の終了。あたしがお願いしたのは、誹謗中傷と謎の声の正体を突き止めること。
あれらの犯人が全て風音の仕業で確定だというのなら、あたしの依頼は遂行されたことになる。
だけど、あたしはまだ納得はできない。
犯人が赤の他人であったり、悪霊と呼ばれているタイプの幽霊であったなら、個人情報の開示からの裁判や、神社等へ行ってのお祓いという次の工程へ移れるが、まさか相手が自分の家族、それも実の妹であっただなんて想定すらしていなかった。
あたしに対して、何故あんな心無いコメントをよこしていたのか。
その理由を明らかにしたいし、それに動画の声についての説明だってしてほしい。
コメントはスマホやパソコンから普通に打ち込むだけの作業だが、あの動画に入り込んでいる声は、どのような手段で紛れ込ませたのか。
そのことに関しても、今この場ではっきりとさせてほしい。
「水沢さん。このまま、依頼の継続をお願いします。本当に全てがわかったのでしたら、今この場で全部教えてください」
後日とか、曖昧なままでとか、そんなことなどしたくはない。
着けることのできる決着は、できる限り早く終わらせてしまうべきだ。
そんな覚悟を持って、あたしは迷いなく自分の意志を水沢さんへと伝えた。




