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わたしは黄泉の光に魅せられる  作者: 雪鳴月彦
動画越しの執念
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動画越しの執念 62

「誰にも言ってないよ。下手に話して、お姉ちゃんに会わせてとか動画観たとか話振られても、鬱陶しいし面倒なだけだから」


「本当に?」


「当たり前でしょ。わたしがお姉ちゃんの宣伝みたいなことして、何の得があるの? もういい? 無駄話してる暇ないから」


 嘘を言っているような感じはしないものの、何かが引っ掛かる妹の態度に、あたしが引き止めるための言葉をかけようとした瞬間。


 突然、ポケットに入れていたスマホから、着信音が流れだした。


「ちょっとごめん」


 風音に断りを入れてスマホを取り出すと、画面には登録したばかりの[静寂堂]の文字が表示されていた。


 また何か確認したいことがあるのだろうかと思いつつ、その場で通話をタップしスマホを耳へと近づけた。


「はい、美山です」


『どうも、お世話になっております。静寂堂の水沢です。今、お時間大丈夫でしょうか? ご依頼の件について、お話したいことがあるのですが』


 昨日耳にしたのと同じ落ち着きのある声が、鼓膜を流れて脳へと届く。


「あー、えっと、ごめんなさい。ちょっと今はタイミングが悪いので、もう少ししたらこちらからかけ直しを――」


「話せば良いじゃん。こっちは用ないんだし、邪魔だから部屋に戻ってよ」


 風音に気を遣い、ひとまず水沢さんとのやり取りは待ってもらおうとした矢先に、これみよがしな大声が廊下に響いた。


『ん? ひょっとして、近くに誰かいらっしゃいますか?』


 案の定と言うべきか、水沢さんの耳にも届いてしまったらしく、訝しがるような声を返された。


「はい。今、いもう――」


『ひょっとして、そこにいらっしゃるのは先ほどメールで確認させていただいた、妹さんでしょうか?』


 こちらの言葉に被せるようにして告げられた水沢さんの問いに、あたしは一瞬だけ思考が停止した。


 さっき届いたメールでの確認事項。あたしに姉妹はいるのか。もしいるのなら、本人の写真があれば送ってほしいという内容の、短い文章が脳裏をよぎる。


「はい、そうですけど……」


 ザワリと、胸の奥が泡立つような感覚に襲われる。


 今から自分は、何か嫌なことを告げられるのではないかという、本能的な直感。


『でしたら、注意してください。今、美山さんと一緒にいるその妹さん。その方が、貴女に誹謗中傷を行い、動画内に声を紛れ込ませている犯人です』


 次の台詞を待つための心積もりをする間も与えてもらえぬうちに、水沢さんは致命的としか言えない真実を吐き出してしまった。


「…………」


 スマホを耳に当てたまま、改めて自分の妹へ視線を向ける。


 一つ屋根の下でずっと共に暮らしてきた、たった一人の姉妹。


 自分にとって、もっとも身近にいた無償の信頼を与えあえるはずだった存在。

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