動画越しの執念 61
突っぱねるような妹の言葉に気圧されることなく、明瞭な声で言葉を返して、あたしはジッと目の前に隔てられた茶色いドアを直視し続ける。
直後、小さな舌打ちが聞こえて、ふて腐れたような足音が近づいてきた。
ガチャリと金属音を立てて、ドアが開く。
「何?」
その隙間から、見慣れた妹の顔が覗いた。
お世辞にも歓迎しているとは言い難いその表情を確認してから、あたしはチラリとその背後に広がる室内を一瞥する。
「中には入れてくれないの?」
「当たり前でしょ。わたしにだって、プライバシーはあるって」
「ちょっと前までは、よくあたしの部屋に遊びに来てたのに」
「用事は?」
こちらの返しをろくに聞かず、ぶっきらぼうな物言いをしてくる風音に苦笑をして、あたしは仕方がないと本題に入ることにした。
「さっきね、学校の帰りに紅美ちゃんと会ったんだけど、風音ってさブイフェイに興味あったの?」
「……はぁ?」
あたしの問いかけからその一言を発するまでに、一秒半ほどのラグがあった。
不愉快を露わにしていた風音の顔に、新たに警戒の色が混ざりだしたことを見逃さず、あたしは視線を逸らすことなく妹の瞳を注視する。
「いきなり部屋に来て、何を話し出すのかと思えば。友達の影響で、それなりには興味持つようにはなったよ。って言っても、お姉ちゃんの動画は全然観てないけどね。つまんないから」
「うん。別にあたしの配信をどう思うかは、風音の自由で良いよ。ただ、ちょっと気になったんだけどさ。風音、あたしがブイフェイやってること、学校の子に話したりしてないよね?」
「はぁ? 何で?」
「気になっただけ。紅美ちゃんから風音がブイフェイ好きだって教えられて、推しがいるとか二人で一緒に初見のブイフェイ動画観たりしてるって聞いたときに、流れであたしのことを漏らしちゃってたりしてないかなって」
一切の誇張や偽りのない思いをストレートに伝えると、風音はこれ見よがしに怒りの形相を浮かべ、
「わたしがいちいちお姉ちゃんのこと言いふらしてるって? 根拠もないくせに、人を疑ってるんだ?」
歪めた口から、敵意のこもった毒を吐き出してきた。
「違う。根拠がないから、こうしてちゃんと確認に来たんだよ。別に風音を責めてないし、責めるつもりもない。質問に答えてほしいだけ」




