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わたしは黄泉の光に魅せられる  作者: 雪鳴月彦
動画越しの執念
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動画越しの執念 60

         11


「ただいま」


 自宅の玄関を開け、静まり返った家の中へ無機質な声を泳がせてから、あたしは三和土(たたき)にある靴を確かめる。


 両親は仕事で不在。


 お母さんが帰って来るのは夕方の六時半前後。まだ一時間は余裕がある。


 お父さんの帰宅は恐らく九時を過ぎるだろう。週末は大抵遅いから、早く帰って来る確率はほとんどゼロに等しい。


 そして妹――風音は既に、帰ってきている。


 いつも履いている白い靴があるのを確かめて、あたしはまるで他人の家に忍び込むような心地で靴を脱ぎ、そっと家へ上がった。


 あたしと妹の部屋は、二階にある。


 一階に人の気配がないのなら、必然的に妹の現在地は自室ということになるだろう。


 階段を上がり、一度自分の部屋へ荷物を置くと、机の上にある鏡に自身の姿を映し、大きく息を吐き出す。


「妹と話するだけのことに、何を緊張してるのよ」


 硬い表情を見せる鏡の中の自分へ呆れたように声をかけ、あたしはこのうまく言葉に表せない感覚を胸騒ぎと呼ぶのかもしれないと、そんなことを考えた。


 妹の友人と会話をしてから、唐突に生まれた猜疑心とソワソワした落ち着かない気持ち。


 それらを強い意志で抑え込み、あたしは廊下へ戻る。


 妹の部屋は、両親専用の物置と化した部屋を一つ挟んだ位置にある。


 距離にしてほんの数メートルを進んで、ドアの前で足を止めた。


 妹の――風音の部屋からは物音は一切聞こえてこない。


 寝ているのか、まさか柄にもなく勉強をしているということはないだろう。


 意を決して、ドアを遠慮がちにノックする。


 乾いた音が廊下に響き、それから五秒ほどの静寂があった。


「……何?」


 聞こえなかったのかと疑い、再度ノックをしようと腕を上げかけた瞬間、中から不機嫌そうな風音の声が返ってきた。


「あたしだけど、ちょっとだけ時間貰えるかな。訊きたいことがあって」


 意識して喉に力を込め、あたしは努めて平静を保ちながらそう声をかける。


「そこで話せば良いじゃん。わたし今忙しいんだけど」


「ごめん。できれば、ちゃんと顔を合わせて話したい」

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