動画越しの執念 56
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スマホからメールの受信を告げる音が漏れ出してきたのは、学校から帰る途中でのことだった。
相手は、調査を依頼した静寂堂の水沢さん。
もう何か進展があったのかと期待をしつつ内容を確かめると、そこには調査を続けるにあたって必要らしい質問が記されていた。
「……?」
こんなことを訊いて、依頼した件の調査にどんな有用性があるのだろうかと訝しみながら、それでも必要と言うのなら答えなくてはと思い、あたしは返信を打ち込み送信する。
「あ、アカリ先輩! お疲れ様でっす!」
返信を送り終えた画面をぼんやりと見つめていたあたしの背後から、突然元気の良い声が響いてきた。
内心驚きながらも平静を装い振り返ると、そこには見知った女の子が一人、人懐こい笑顔を浮かべて立っていた。
「……ああ、紅美ちゃんか。こんにちは。今日は一人なの?」
そこにいたのは、妹の友人である久部紅美ちゃんで、小学生の頃は学校が終わるとよく家に遊びに来ていたので、あたし個人にとっても顔馴染みの人物だった。
「はい、ちょっと帰りに用事があったんで。先輩も帰る途中ですか?」
おかっぱボブの髪をサラリと揺らし、紅美ちゃんはさり気ない足取りであたしの横へと並んでくる。
どうやら、このまま一緒に帰ろうという考えらしい。
「うん。紅美ちゃん、部活はしてないんだっけ?」
スマホをポケットにしまって歩きだしながら、当たり障りのない会話を振った。
自分がブイフェイの活動をしていることは、紅美ちゃんには教えていないため、あまりプライベートの詮索はされないよう、話をする際は常に注意して接している。
「手芸部ですけど、今日は休みです。部員が少ないから、割と自由なんですよ。うちは運動部みたいに大会もないので、週に二回くらいしか活動してませんし」
「へぇ、じゃあ普段は結構遊んだりしてるんだ? あ、だから風音と頻繁に出かけたりしてるんだね」
風音というのは、三歳下の妹の名だ。
小さい頃は何をするにもあたしの後をついてきていたけれど、大人になったつもりなのか、今はほとんど会話をすることもなくなってしまった。




