動画越しの執念 2
「――きみ、なかなかに頑固と言うか、懲りないね」
五日ほど前、初めてここを訪れたときから変化のない、殺風景な室内を眺め回していると、水沢さんがデスク越しに呆れた声を漏らしてきた。
「はい。水沢さんが首を縦に振るか、イエスと答えてくれるまで、何度でもここへ足を運ばせてもらうつもりです」
綺麗に整理されたファイルが並べられている棚を見つめていた目を水沢さんへと向け、わたしはとびっきりの笑顔でそうはっきりと言葉を返す。
「きみねぇ……。ああもう、困ったな」
水沢さんは脱力したように肩を落として頭を振ると、これみよがしなため息を一つこぼして、座っていた椅子から立ち上がった。
そのままデスクを迂回してこちらへと近づいてくると、わたしから目を逸らすことなく正面へ対峙するように腰を下ろす。
「はい、どうぞ。熱いから気をつけてね」
「あ、ありがとうございます」
湯気の立つコーヒーが目の前に置かれ、わたしは即座にお礼を口にして、女性――園部さんを見上げ笑顔を返した。
園部沙彩さん。二十五歳。
身長はわたしよりも大きく、恐らく百六十センチ前後――わたしの身長が百四十八センチなので、そこから推測した限りでは――くらいだろう。
薄い茶色に染めたウルフカットの髪がボーイッシュな印象を与えてくるけれど、実際に接してみればすごく優しくて面倒見の良いお姉さんという感じの女性だった。
ここ静寂堂の事務を一人でしている沙彩さんは、水沢さんとは幼馴染の関係なのだと、三日前に教えてくれた。
何でも、高校を卒業と同時に静寂堂を継いだ水沢さんへ直談判をして、半ば強引なかたちで従業員として雇わせたのだとか。
いったい、何故そこまでして静寂堂で働くことにこだわったのか、その辺りの事情にまでは踏み込んでいないけれど、よほど沙彩さんの興味を惹く魅力があったのだろう。
「煌輝、雇ってあげたらいいじゃないの。陽奈乃ちゃん、毎日健気に足を運んでくれているのよ? ここに来るためだけに、せっかく頑張ってた部活を退部までしたって」
お盆を胸に抱えるようにして持ち、沙彩さんはわたしを援護するかたちで水沢さんへ声をかけた。
「うるさいな。お前は戻って仕事の続きをしてろよ」
「仕事ぉ? どこかの誰かさんがまともにお客取らないから、かなり暇させられてるんですけどねぇ?」
「う……」
煩わしそうに顔の前で手を振る水沢さんだったが、沙彩さんの反論であっさりと口元を歪ませ黙り込む。