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わたしは黄泉の光に魅せられる  作者: 雪鳴月彦
動画越しの執念
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動画越しの執念 36

「そう。この動画に入っていた声、《お前だけは許さない》。こんな台詞を吐く相手って、余程被害妄想が強いタイプの他人でもない限りは、間違っても見ず知らずの人間ではないはずだよね。何かしら美山さんと縁があって、その上で恨みを抱いていなければ、こんなことを言わないはずだ」


 水沢さんは、動画から目線だけをわたしへスライドさせ人差し指を立ててくる。


「それともう一つ付け加えておくと、この動画に入っている声からは、死んだ人間の気配と言うか、本物の幽霊独特の感覚が微塵も伝わってこないんだ。であれば、答えは生霊で尚且つ美山さんが知っている人物の可能性が高くなる」


 まぁでも、同じブイフェイ活動をしている赤の他人が、一方的に美山さんの人気に嫉妬して逆恨みしている可能性もゼロではないから、そこはちょっと気に留めておく必要はあるけどね。


 最後にそう付け加えて、水沢さんは話を止めてコーヒーを啜った。


「美山さんと認識があって、更に強い恨みを持つ人物……。逆恨みを含めて、犯人が業界関係者だとしたら、絞り込むのは手間がかかりそうだけど、知人関係くらいなら美山さん本人に心当たりを訊いてみれば、案外犯人の候補は見当がつけられるんじゃないかしら」


 顎へ指を当てるポーズをしながら、沙彩さんはわたしと水沢さんを見比べるよう、視線を交互に向けてくる。


「うん。まぁそれでうまくいくことも、充分にあり得るだろう。だけど、生きた人間ってそう単純じゃないからなぁ」


 沙彩さんの言葉に、口元を歪めながら水沢さんは答えて、コトリと小さな音を立てながらカップをコースターの上へ戻した。


「単純じゃないって、どういうことですか?」


 わたしが問うと、水沢さんはチラリと上目遣いにこちらを見てから、


「一見、仲が良いように振る舞っている人間が、実は自分を殺したいくらいに憎んでいる……なんてことは、この世の中いくらでもあるってことさ」


 皮肉気な笑みを浮かべ、そう告げた。


「えぇ……?」


 その言葉から、親友の裕子がわたしを殺したいくらい憎んでいるシチュエーションを連想してしまい、つい顔を顰めてしまう。


 自分が心を許している人間が、突然悪意と共に凶器を突きつけてきたら、そのときわたしはどんな思いで相手と対峙するだろうか。


 きっと何も考えられず、呆然としている間に最悪の事態を迎えてしまいそうな気がする。


「誰が美山さんを恨んでいるのか。それがわかれば、一気に事態は進展するだろう。俺は改めて、瓜時くんの調べてくれた動画とコメントを調べてみるから、瓜時くんはブイフェイで活動している人たちの中に美山さんと親睦の深い人、または一方的なライバル心を抱いている人がいないかをチェックしてもらえるかな」


「はい、わかりました」


 サラリと告げられてしまったが、正式に任せられた初めての仕事だ。


 難しいことを任されたらどうしようという一抹の不安はあったけれど、ブイフェイについて調べる作業なら、趣味の延長みたいなものだ。


「ひとまず、今日は仕事の初日だから、六時半くらいまで頑張ろうか」


 言われて、壁に掛けられた時計を見上げると、現在時刻は五時五分を過ぎた辺り。


 一時間もあれば、何かしらは調べられるんじゃないか。


 ――案外、楽勝かも。


 そんな余裕を頭の中で転がしながら、


「はい、頑張ります!」


 わたしは、元気の良い返事を室内に響かせた。

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