プロローグ 4
色々な疑問と不安を頭の中で混ぜ合わせながら返答を待つわたしの耳に、男の人の静かな声が流れ込む。
「さっきから、そこにいるだろう? 見えにくいのかもしれないが、集中しながらよく目を凝らして見ることが大事だ。相手は、ずっときみのことを見ているぞ」
「え?」
言いながら、男の人が細い指で示したのは、先ほどまでわたしが見つめていたただの空き地だった。
人はおろか、何一つ目ぼしい物すら存在しないその場所に、わたしをここへ迷い込ませる犯人がいると言われても、どこを見てもそれらしい人影は――。
「――ん?」
いた。
わたしが立つ位置から、右斜め前。生い茂る雑草の隙間から、ジッとこちらを見つめる目が二つ。
それと目が合った瞬間、わたしはまるで頭の中に突風が吹いたかのような鮮烈な感覚に襲われ、それと同時に忘れかけていた遠い記憶が沼の底から射出されるかの如き勢いで蘇ってきた。
「……まさか、あなた……よしふみ?」
忘れかけていた幼き頃の記憶から抽出された、懐かしい名前を口に出す。
わたしに名前を呼ばれると、茂みに隠れるようにしていた相手――よしふみは、嬉しそうに目を細め、幼い頃に聞いた声と変わらない懐かしい声を返してきた。