動画越しの執念 33
「へぇ。それなら、後で俺も試してみようかな」
「……そんなサラッと言えるなんて、勇気ありますね。恐くないんですか?」
わたしの言葉にあっさりと応じてくる水沢さんに視線を向けると、涼しい顔で
「別に。慣れてるしね」
と、軽い調子で返されてしまった。
その後、何度か同じ箇所を再生し、紛れ込む謎の声を確認した水沢さんは、別の動画に入り込んでいる声に関してもできる限りチェックしておきたいと言いだし、わたしはとことんそれに付き合った。
最初に再生した動画以降、謎の声はほぼ毎回入り込んでいた。
編集動画も、ライヴ配信のアーカイブも、その内容に対して一切関係なく、それが当たり前ででもあるかのように、友好的でない呟きがどこかに潜んでおり、それに気づいたリスナーが毎回指摘する行為が続いている。
同時に、誹謗中傷に該当するコメントの方も、改めて水沢さんと沙彩さんとの三人でチェックしてしていく。
“他のブイフェイの方が面白いわ。こいつ、トークスキルもないくせに何で人気あるの?”
“どうせ金でファン増やしてるだけだろ? 才能もないくせに調子に乗るな”
“毎回よくそんな媚びるようなキモい喋り方できるよな。そこまでして構ってほしいのかよ。真面目に働けクソニート”
コメントを全部拾っていたら、それだけで一日の大半を失ってしまうような、膨大過ぎる量の誹謗中傷。
これほどの嫌がらせを毎日受け続け、それでもアカリさんは昨日ここへ来た際には笑顔を見せ、あまつさえ自分を貶めようとしている犯人や怪異――かどうかはまだ不明だけど――と、真正面から向き合い戦おうとしている。
――本当に、凄い人だなぁ。
そう考えると、素直にそんなリスペクトの気持ちが湧き上がってきた。
「……この七つ目の動画に入っている声、少し気になるな」
暫くの間は、声とコメント欄のチェックに集中し、会話の少ない状態が続いていたけれど、水沢さんがある動画を指差し再確認を求めてきたことで、沈黙時間は破られた。
該当の動画は、少し前に中高生たちの間で流行していたゲームの実況動画で、蒼雷メリルとプレイ中のゲーム映像が一つの画面に映し出されているものだった。
その動画を再生して二十分が経過した辺りに、他の動画にも入り込んでいる声と同一の声音で、
《お前だけは許さないから》
そう呟かれているのが確認できた。




