プロローグ 3
あまりにも不躾なその態度に若干の不快感が込み上げたものの、文句を口にするきっかけを掴めず、わたしはただ見られるがままに立ち尽くしているだけだったが、やがて
「……なるほど」
何かに納得したのか、男の人は短く呟きをこぼすとようやくわたしから視線を逸らして、すぐ横にある空き地へと顔の向きを変えた。
そこからまた数秒間、男の人は雑草以外は何もない空き地をジッと眺めて、合点がいったと言いたげに何度か小さく頷く仕草をしてみせた。
「やはり、きみがトリガーになっているんだな」
「え?」
わたしに向き直り、男の人は意味不明な言葉を放ってくる。
「きみ、名前は?」
「あ……えと、瓜時陽奈乃、ですけど」
「瓜時さん、か。では、瓜時さん。きみに一つ質問するが、きみはここ最近、頻繁にこの空間へ迷い込んだりはしていないか?」
そう問われて、わたしは驚きで顔を強張らせた。
この何も変化が起こらない無人の空間に人が現れたこと自体初めての出来事なのに、男の人はわたしが既に何度もここへ入り込んでしまっていることを言い当ててきた。
「は、はい。二週間くらい前から、突然ここに迷い込むようになってしまいまして。あ、あのぉ……ひょっとして、あなたはここがどういった場所なのか、ご存知なんですか?」
突如として現れた、どこの誰かもわからない相手である以上、警戒心は抱いたまま、わたしは質問を返した。
「ああ。こうして実際に巻き込まれるのは、初めてだけどね」
「――っ! そ、それじゃあ、ここからすぐに抜け出す方法とかも知っていたりするんですか?」
あたかも当然といった風に答えてくる男の人の返答に、わたしはつい身を乗り出しそうになる。
「もちろん。抜け出す方法も、この空間へきみが迷い込んでしまう原因も、全てわかるよ」
「わたしが迷い込む原因? 何ですか、それ。偶然か何かで巻き込まれているわけじゃないってことですか?」
「それはそうだろう。まぁ……正確に言えば、本当に単なる偶然や不運で迷い込んでしまう人も、ごく稀に存在しているのは事実だけど。少なくとも、きみはそうじゃない。明確な目的があって、ここに呼ばれている」
「呼ばれて? ……って、誰にです?」
この謎の空間には、今までずっとわたし一人きりだった。
呼ばれていると言われても、肝心の主はいったいどこにいると言うのか。
そもそも、こんな不可思議な場所へ呼び込む存在が、普通の人間とも思えないけれど……。