動画越しの執念 19
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六月十五日。木曜日。
今日は朝からずっと、そわそわした気分が身体中にまとわりついて離れなかった。
いよいよ、水沢さんの元で仕事をすることができる。
労働という人生の初体験に対するドキドキも当然あるけれど、正直なことを言えば、どうして自分がここまで静寂堂で働けることを待ち望んでいるのか、それを言語化するのは難しい。
昨日は、恩返しのためと水沢さんには伝えた。
確かにそれは嘘ではない。今だって、水沢さんには恩を感じているし、あの人の役に立ちたいという想いは強い。
だけど、その想いをこれほどまでに膨らませてしまっている自分のことに関しては、どうにもうまく説明できないのだ。
――水沢さん、わたしによしふみが一緒にいるって言ってたけど。この想いがその正体ってことなのかな。
実際、水沢さんへ恩を返したいと一番に思っているのは、わたしではなくよしふみであり、わたしはその想いを成し遂げるための受け皿になっているだけ、みたいな説明はされたけれど。
「……わっかんないなぁ。でもわたしだって、助けてもらったっていう気持ちはちゃんとあるしなぁ」
黄泉比良坂から現実に戻り、真相を水沢さんから教えてもらった際、わたしは間違いなく自分の意志で水沢さんへ感謝の気持ちを抱いた。
であれば、やはり今のこの気持ちはよしふみとは無関係に、純粋なわたし自身の気持ちということなのではないか。
「うーん。本当にわかんないなー」
「何がわからないのよ?」
「うわぁ!?」
昼休みの教室で一人自分と向き合っていると、いきなり背後から声をかけられ、わたしは情けない悲鳴を上げながら即座に声の主へと振り返った。
「何だ、裕子か。驚かさないでよ」
「そっちが勝手に驚いたんでしょうよ。こんな天気の良い真っ昼間から、何をそんな深刻に考え事なんかしてるの?」
中学時代からの親友で、ソフトボール部の副部長を務めている蟻塚裕子は、呆れたような顔でこちらを見下ろしながら、空いていた前の席へと回り込みわたしと向き合うかたちで腰を下ろしてくる。




