動画越しの執念 18
未だ困惑したままのわたしへ説明を補足してから――それでもまだ理解しきれていないけれど――、何故か水沢さんも困った様子で顎へ手を当て何やら考え込み始めた。
「うーん、こうなると無理矢理どうこうってわけにもいかないかぁ。…………うん、まぁそれならば仕方がない。瓜時陽奈乃くん、あまり気は進まないが、きみをこの静寂堂のアルバイトとして採用しよう」
「――っ!? 本当ですか?」
君子豹変する水沢さんに意表を突かれたのも一瞬で、わたしはすぐに喜びが胸の中に広がるのを実感し、勢い余ってテーブルへ両手をつきながら水沢さんへと顔を近づけてしまう。
「ああ、ただしだ。ひとまず一ヵ月間は仮採用とさせてもらう。その上で、継続して雇うかどうかの見極めをするから、そこは理解するように。この仕事も、適正ってものはあるからね」
すぐ近くまで迫ったわたしの顔を、露骨なまでに鬱陶しがりながら、水沢さんはソファへ座れとジェスチャーをしながら告げてくる。
「はい! それで構いません! 改めてよろしくお願いします! それで、まずは何をすれば良いでしょうか? お茶くみなら、沙彩さんに教わったばかりなのでできますけど……あ、床掃除とかどうでしょうか? こう見えて、わたし掃除得意なんですよ。小さい頃は毎年年末になるとお婆ちゃんと一緒に――」
「ああいや、掃除はしなくて大丈夫。園部が毎日やってくれているから、問題ない。今日はひとまず、これで帰ってくれ」
息巻くわたしへ右手の平をかざすようにして、水沢さんはピシャリとこちらの話を遮ってきた。
「え? 帰れ? 雇ってくれた瞬間に、帰れと?」
「うん。今日のところは、だよ? 雇うと言っても、こっちにだって準備がある。契約書とか雇うにあたっての労働条件の確認とか、そういうのを明日の夕方までに用意しておくから、そのときになったら正式に仮採用だ。だからひとまず今日はもう帰って、また明日今くらいの時間帯に来てくれたらいい」
「ああ……なるほど。そういうことでしたら、納得です」
この綺麗に整頓された室内は、沙彩さんが管理をしているおかげなのかと、そんなことを頭の隅で考えながら、わたしは告げられた説明に了解を示す頷きを返した。
「うん。瓜時くんにしてもらう仕事も、明日までには用意しておくよ」
納得し大人しくなったわたしに安堵した面持ちで、水沢さんは最後にそう付け加えると、わかったなら早く帰れと言いたそうな目を向けてくる。
話がまとまった以上、このままただいても邪魔になるだけだし、アカリさんの依頼に関する作業もあるだろうと思い、わたしは沙彩さんの側に置いたままにしていた鞄を取りに立ち上がる。
「良かったわね、正式採用決定で。明日からよろしくね、陽奈乃ちゃん」
「はい! 色々と至らないことも多いかと思いますが、こちらこそよろしくお願いします!」
優しい笑みを浮かべて声をかけてくれた沙彩さんへ、こちらも会心の笑顔で応じ、わたしは軽やかな足取りで入口へと移動する。
「それじゃあ、また明日来ますので。どうぞよろしくお願いします!」
ドアを開ける直前に二人の方へと振り返り深く頭を下げて、わたしは小さく頷く水沢さんと「また明日ー」と手を振ってくれる沙彩さんに見つめられながら、静寂堂を後にした。




