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エピローグ 7

 それでも、足元を見ればよしふみがいて、静寂堂を振り返れば、水沢さんと沙彩さんがわたしを優しく見つめていて。


 それらが、全ては現実なのだと教えてくれる。


「見えないから私はよくわからないけど、お友達とまた会えたってことなのかしら? 良かったじゃない、陽奈乃ちゃん」


 わたしと目が合った沙彩さんが、そう言葉をかけてくれる。


「はい。まだちょっと、頭の中が困惑してますけど、こういうことって本当にあるものなんですね」


「霊とまともに関わる人間なんて、そう多くはないからね。瓜時くんの反応は、当然と言えば当然だ。まぁそういうことは、場数を踏んでいけば自然と慣れて、日常の一部と受け入れられるようになるさ」


 沙彩さんへと返した言葉に、水沢さんが応じてくる。


「とは言え、まさか瓜時くんがここまで霊体との接触に適応してしまうなんて想定していなかったから、俺自身ちょっと驚いているのが本音だけど……。これなら、うちの従業員として瓜時くんには今後も期待できそうだな。アルバイトとして雇っておくのがもったいないくらいだ。高校を卒業したら、このままうちに就職する気はないかな?」


「え? それは非常に嬉しいですけど、まだここでのお仕事に慣れていないので、急に言われても困ります。迷惑にはなりたくないですし……もっと経験を積んで、自信をつけないと」


 美山さんの依頼は、たまたま役に立てただけだし、裕子の件は親友だから行動できただけのことであって、これだけの成果で水沢さんをサポートできる能力があるかなんてまだわからない。


 とは言え、水沢さんへの恩を返すという意味で、まだまだたくさんのことを覚えて頑張らなくちゃいけないという気持ちが強いのも事実。


 ――このままここに就職……そんな未来を実現できるのかな。


 卒業まではまだ一年以上あるし、どうなるかなんてわからないけれど、自分に向いている仕事だと思えたのならそれは幸運なことになるはず。


 そうすれば、ずっと水沢さんのために頑張ることができるし、美山さんや裕子のように困っている人や幽霊たちを一人でも多く助けられるかもしれない。


 そのためにも、まずはできることから、しっかりとこなしていかなくては。


「よしふみ、これからも一緒に頑張ってくれる? わたし一人じゃ、ちょっと不安だし」


 身を屈め、幼き頃からの親友に問いかける。


“ワンッ!”


 わたしの言葉を理解してくれているのだろう。


 よしふみは嬉しさを爆発させたようにその場で足踏みをすると、元気よくわたしの胸に飛び込んできた。


「あ……」


 瞬間、はっきりと自分の中によしふみの温かい気配が重なったのを感じ取ることができ、わたしはじんわりと染み渡るような感動を味わった。


「勉強とアルバイトの両立は大変だろうけど、あまり肩肘張らずに気楽にやってくれれば良いさ。優秀な新人として、期待しているよ。瓜時くん」


「私も。これからもよろしくね、陽奈乃ちゃん」


 よしふみの温もりに身を預けているわたしの耳に、二人の声が心地よく滑り込んでくる。


「はい! まだまだ未熟ですけど、今後ともよろしくお願いします!」


 わたしは屈めていた身を跳ねるようにして戻すと、自分の居場所となりつつある静寂堂へ引き返し、静かに入口のドアを閉じた。




          完

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