エピローグ 5
“ううん。私はちゃんと成仏できたよ。そこは安心して。ただ、成仏はしたんだけど……どうしても、翔のことが気になっちゃってさぁ。お別れのときはあんな感じで綺麗にバイバイできたけど、やっぱりね、好きな人のことってどうしても心配になるって言うか……守ってあげられたらなって、思ったりなんかしちゃったりしてさ”
プライベートな秘密を打ち明けるみたいに、恥ずかしがりながら語る裕子を見て、わたしは直感でピンときてしまった。
足元に座るよしふみを一瞥し、それから背後――水沢さんへと振り返る。
「あの、水沢さん。ひょっとしてですけど、裕子ってよしふみと同じように、守護霊としてこの世へ戻ってきてたりしてますか?」
裕子の言葉から、よしふみがわたしの守護霊となった経緯を連想した。
そして、それを踏まえた上で改めて裕子の気を探ってみると、昨日までの気とは確実に何かが変化していることも把握できた。
「うん、正解。よくわかったね。蟻塚さんは今、彼氏くんの守護霊としてこの世に存在しているようだ」
水沢さんが、わたしの推測を正しいと認め頷きを返してくれた。
「やっぱり。そっか、彼女から守護霊にクラスチェンジをしたわけか」
“いや、クラスチェンジかどうかは知らないけどね”
顔を前に戻し、まじまじと裕子を観察しながら呟くわたしに、当の本人は苦笑しながら言葉を返してくると、スッと視線をわたしの足元にいるよしふみへ移動させた。
“成仏した後にさ、この子のことを思い出したんだ。ヒナのことが好きで、大切で、側にいて守りたいって思ったから、この子はヒナの元に戻ってきた。それなら私だって、翔の側にいられたりするんじゃないかなって。恋人同士として寄り添うことはもうできないけど、せめてすぐ側で翔が幸せになれるよう見守ることができたら、あわよくば手助けなんかもできたら最高かなって。そんなことを強く願ったら、気づいたときには翔のいる病室に戻ってきてた”
そこまで話して、裕子はどこか嬉しそうに目を細める。
“成仏する前と違って、翔との魂の結びつきが強くなってるのがはっきり感じられてさ、それで何て言うか……本能的? 直感的? まぁ何か、そんな感じで、ああ、私は翔を守る存在として、この世に戻ってきたんだって自覚できたの”