エピローグ 4
「えー、嬉しいなぁ。そんな風に思ってくれてたんだ?」
言葉通り嬉しそうに笑ってこちらを見つめてくる沙彩さんに、わたしはちょっと恥ずかしくなりつつ笑い返す。
「……二人きりだと緊張って、酷いな。俺って警戒でもされてるのか?」
沙彩さんとは逆に、不満そうな声を漏らしたのは水沢さんだった。
「それはそうですよ。いくら恩人とは言え、男の人と二人きりで何時間も過ごすのは、仕事だって割り切ってても緊張はします」
「わかる。煌輝の場合、おしゃべりもあんまりしないから、余計に気を遣わせるんだよね、相手に」
わたしに便乗するかたちで、沙彩さんもうんうんと頷きながら水沢さんをからかうように声をかける。
「園部、お前俺のことをそんな風に見ていたのかよ……」
苦笑しながら呻いて、水沢さんは飲みかけだったコーヒーを口へと運ぶ。
そして、ふと何かに気がついたような顔で入口を見つめ、一瞬だけ動きを止めた。
それから、ゆっくりと意味深な笑みを口元に浮かべると、視線だけをわたしへスライドさせてくる。
「瓜時くん、どうやらきみにお客さんが来たみたいだよ」
「え?」
突然何を言いだしたのかと訝しみつつ、わたしは水沢さんの視線を追いかけるように静寂堂の入口を確認する。
「……? あっ⁉」
閉ざされたドアの前に人の姿はなかったが、そのドアの向こう側から感じ取れた気配に、わたしは声を上げながら立ち上がると、早足で入口へと駆けていく。
そのままドアを開き、外にいる人物の前へと飛び出した。
“うわっ! びっくりしたぁ……てか、ばれちゃってた?”
「…………」
勢いよく開けたドアの前に立っていた人物が、わたしの顔を見て慣れ親しんだ笑みを浮かべてくる。
“こっそり近づいて驚かそうと思ったんだけど、何でばれちゃったのかな。ひょっとしてヒナっち、幽霊の気配とかもわかっちゃったりしてる?”
「……裕子。どうして?」
“ふふ。今日はね、ちょっとご挨拶に伺いました”
訳が分からずにいるわたしを面白そうに見つめながら、裕子はおどけるように腰を曲げて深いお辞儀をしてきた。
「ご挨拶? 裕子、成仏したんじゃなかったの? まさか、わたし何か間違えたことしちゃった?」