救うべき想い 43
不意を突くように飛び出した結婚という言葉に、裕子が虚を衝かれたような素の声を漏らした。
「俺、大学出たら必死に働いてさ、しっかりお金貯めて裕子が良いなって気に入ってくれる家買って、そこで一緒に子供育てながら生きていけたらとか、勝手に考えててさ。こんなこと言われても、キモいかもしれないけど……本当に真剣に、そうなれたら良いなって考えてたんだよ」
“……”
「……」
大石くんの告白に、わたしと裕子は二人揃って言葉を失った。
裕子は嬉しさと驚きが入り交じった顔で、身体を硬直させてしまっている。
わたしとしても、まさかここでこんなサプライズみたいな告白を聞かされるとは夢にも思っていなかったため、親友が意中の相手からそこまで想われていたことに対する嬉しさと、目の前で告白同然の言葉を聞かされてしまった気恥ずかしさで、体温が高まるのを自覚した。
「……こんなこと、今頃になって伝えても遅すぎるけど。それでも、本当に心からの、俺の気持ちだから。それくらいの覚悟で、裕子のことが好きで……愛してたから」
「――っ!?」
刹那、裕子から発せられていた気がフワッ……と、大きく膨らむのを感じ取った。
まるで温かい春の野原を優しく吹き抜けるそよ風のような、柔らかい空気がわたしの身体を駆け抜け、大石くんへと流れていく。
その穏やかな変化に驚きながら裕子の方を窺うと、目をこれでもかと言うくらい大きく見開き、真っ赤になった顔がそこにはあった。
「……裕子?」
大丈夫? そう訊ねるつもりで声をかけたわたしの言葉を合図にするように、裕子の両目からポロポロと透明な雫がこぼれ出し、それは床に落ちると同時に消えていく。
“……う、だよね”
「え?」
ジッと大石くんを見つめたままでいる裕子の口が小さく動き、何やら言葉を発する。
何を言ったのか、聞き取れなかった様子の大石くんが短く疑問の声を漏らすと、裕子は声のトーンを上げて再び口を動かした。
“卑怯だよね! 今更そんなこと言うの!”
泣き声が、わたしと大石くんの頭の中にだけ大きく響いた。
“そういうのはさ、ちゃんと生きてるうちに聞きたかった。言ってほしかったよ”
「……ごめん。俺、裕子がこんなことになるなんて、夢にも思ってなかったから、いずれもっとちゃんとしたタイミングで伝えたいって、考えてて」
辛い感情を必死に抑えた大石くんの声が、裕子の言葉に応じる。