救うべき想い 41
“翔、私からの最後のお願い。これから先も、翔らしく元気に生きてよ。私のことで、そんなに落ち込まなくて良いからさ。月並みな言葉になっちゃうけど、翔には私の分も人生を楽しんでほしいなって。そんな風に、私は思ってるから。だから、生きて。お爺ちゃんになるまで、一年でも、一日でも長生きして。ね?”
ほんの僅かだけ首を傾け、表情を和らげ微笑む裕子の顔を見つめたまま、大石くんは身動きもせずにただ呆然とした様子をみせている。
ちゃんと裕子の言葉を受け取っているのだろうかと不安を覚え、わたしはジッと大石くんを見守る。
だけど、そんなわたしの心配は杞憂だったようで、数秒間の沈黙を挟んだ後に、大石くんの口がゆっくりと動きだした。
「……どうして、裕子の姿が見えているのか、俺にはよくわからないけど、本物……なんだよね?」
“当たり前でしょ。偽物に見えるの?”
まだ戸惑いの色が濃く混ざっている大石くんの声に、裕子が浮かべていた笑みを強めて深く頷く。
“翔があんまりにも酷い状態だから、もう心配で心配で落ち着かなくてさ。ヒナに頼んで一時的にだけど、こうして会話ができるように協力してもらったの。凄いよね、こう見えてヒナは霊能力があるんだよ。可愛くて頼りになるワンちゃんの守護霊も憑いてるし”
「霊……能力? 本当にそういうのってあるんだ?」
意表を突かれたときに浮かべるような驚いた顔で、大石くんがわたしを見つめてくる。
「正直、自分じゃあまり実感がないんですけどね。ひろふ――守護霊だって、裕子には視えてるのにわたしは気配すら感じ取れてませんし」
苦笑しながらそう告げて、わたしは改めて大石くんに触れている右手に意識を込めた。
「ひとまず、こうしてわたしと触れている間だけは、裕子を認識することができます。ただ、あくまでも裕子が視えているのは、わたしと大石くんだけなので、悔いが残らないよう他の人が来る前に話しておきたいことは話してください」
「……わかった。ありがとう、瓜時さん」