救うべき想い 39
それから、大石くんへ向き直り、努めて冷静な口調で言葉を紡ぐ。
「大石くん……。裕子のことで、まだ色々と心の整理がついてない状況だと思うんだけど、今日はどうしても伝えたいことがあって来たんです」
「伝えたいこと? 裕子の話?」
わたしが裕子の名前を口にするのに合わせて、大石くんの表情がにわかに変化を見せる。
「うん。裕子の遺言……って言い方は違うのかな。その、裕子がね、大石くんに伝えたいことがあるって言うから、それを聞いてあげてほしいなって」
「裕子が俺に伝えたい? 裕子、生きてるときに俺に何か言ってたってこと?」
説明の仕方に違和感を覚えたのだろう。大石くんは僅かに首を傾げ、わたしの告げた内容を現実的な解釈に置き換えて言い直してくる。
だけど、それにわたしは首を横へと振って、そっと大石くんへ右手を差し出す。
「……えっと、何?」
いきなり差し出されたわたしの手と顔を交互に見比べ、大石くんは困った様子で力なく微笑んでくる。
“私が生前、二人には仲良くしてほしいって言ってたって、だから私の大切な人同士仲良くしようって言えば、翔なら納得して手を握ってくれるよ”
どう話を進めるべきか悩むわたしへ、裕子が笑顔で助言をしてくれる。
それに従い言われた通りに言葉を伝えると、大石くんは裕子が言った通り、素直に腕を伸ばし握手をするようにして、わたしと手を重ねてきた。
「裕子にとって大切な人同士、か。そんなこと言ってたんだ?」
重なる大石くんの手から、体温がじんわりと浸透してくる。
その温もりに本能的な安堵感を感じながら、わたしは笑って首を小さく振った。
「言ってた、じゃないんです。今、そう言ったんです」
「え?」
大石くんがキョトンとなるのと、裕子と大石くん、二人の気がわたしの中へと流れ込み、中和されるような感覚を味わうのは、ほぼ同時だった。
右手と左手のそれぞれから二人の気が集まるこの感覚は、生まれて初めて体験するものであり、言語化するのが難しい。
腕の中を心地良い熱が流れ、その熱の質が左右で違う。
大雑把に表現するのなら、そんな感じだろうか。