動画越しの執念 8
渡された名刺を確認し、水沢さんが自分の名刺を渡すため胸ポケットへ手を入れたタイミングで
「えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!?」
わたしは、外まで響き渡るような大声を上げながら立ち上がってしまった。
「きゃっ!? びっくりしたぁ。どうしたの陽奈乃ちゃん? いきなりそんな大声出して」
突然奇声を上げたわたしを、三人が驚いた顔で見つめてくるのにも構わずに、わたしは数秒間口をパクパクさせてから、どうにか喉に力を込めて無理矢理声を絞り出した。
「ご、ごめんなさい。急に知っている名前が出てきたものですから、つい……」
「知ってる名前?」
首を傾げる沙彩さんへコクリと頷いて、わたしは右腕を伸ばしそっとアカリさんの方へと差し出した。
「い、今……水沢さん、蒼雷メリルって仰いましたよね? それって、そちらのアカリさんのことでしょうか?」
「ん? ああ、名刺にはそう書いてあるからね。きみ、美山さんを知っているのか?」
「当然ですよ!」
何ということもないと言いたげにあっさりと答えてきた水沢さんへ、わたしは目を見開いて言葉を返す。
「蒼雷メリルって言ったら、ブイフェイの中でもトップクラスの人気があるんですから! ファン登録者数も三百万人超えてるんですよ? うっそぉ……まさか、同じ市内に住んでたの?」
わたし自身も、熱狂的なファンとまではいかないが、ファン登録はしている。
学校で話題になることもあるし、再生回数の多い有名な動画はそれなりにチェックしていたのだが、まさかこんな身近に本人がいたなんて。
蒼雷という名前に因んでか、青と黄色をメインにした髪色と服装が特徴で、常に元気なテンションで動画を盛り上げるそのキャラクター性を強調するためか、瞳だけは赤いのも強く印象に残っている。
「わ、嬉しい。あたしのこと、知ってくれてるんですね。初めまして、蒼雷メリルです! リアルでもよろしくね!」
「うわぁ……、本物だぁ!」
動画の中で聞いた声と同一の声が目の前から聞こえ、わたしは感嘆の呟きを漏らしてしまう。
「へぇ。私も、ブイフェイっていうコンテンツが若い子たちの間で流行っているのは知ってたけど、そんなすごいお客様がうちなんかに来るなんてねぇ。煌輝、失礼のないようにちゃんと対応しなさいよ?」