救うべき想い 36
自分の失言で裕子に自責の念を抱かせてしまったと、わたしは一瞬焦りそうになったけれど、こちらがフォローの言葉を添えるより先に、裕子はグッと拳を握り締めながら勢いよく顔を空へと向けた。
「……は?」
そのモーションがまるで、〈夢に向かって突き進め!〉みたいなキャッチコピーが書かれたポスターを再現しているみたいに見えてしまい、わたしはついはてなマークを浮かべながら疑問の声を漏らしてしまった。
“うん、私はやっぱり、ちゃんと翔のことを助けなくちゃいけないよね。それが責任を果たすってことだろうし”
「あの……裕子?」
“私が死んだりなんてしたから、翔は落ち込んでる。そして、悪い奴が寄ってきて自殺させようと翔に追い打ちをかけてるわけ。つまり、ちゃんと責任を取って翔を助けることが、私がすべき一番の役割。でしょ?”
「でしょって……頷き難いよ、その同意の求め方は」
相槌を打てば、そうだね裕子が一番悪いよねと言ってしまうのと一緒だ。
そんなこと、わたしにできるわけがないだろうに。
「てか、何で急にそんなやる気を漲らせ始めるの?」
“やる気と言うか、気合だよね。この世の未練と言うのなら、翔にあんな苦しみを残しちゃったことが未練だし。しっかりけじめをつけて、スッキリした気分であの世とやらに行きたいなって。自分でもよくわかんないけど、何か急にそんな感情が強くなってきた”
「……なるほど」
裕子が成仏することに対して前向きなのは良いことだけれど、その分わたしに圧し掛かるプレッシャーは重量を増してくる。
裕子と大石くんの橋渡し役が失敗すれば、裕子が成仏できる日は先延ばしになってしまう。
これは親友として、こちらも気合を入れねばならぬ局面ということだ。
「うー……よしふみぃ、頼りにしてるよぉ。視えないけど」
自分と一心同体になっている幼き日の親友へ言葉をかけるも、返事は聞こえないし気配もまだ感じ取れない。
“ふふ。名前呼ばれて喜んでるよ、よしふみくん。緊張してるの、ヒナっちだけだぞ。もっとリラックスしなよ。別に悪い霊と戦ったりするわけじゃないんだからさ”
「うぅ……何でわたしだけよしふみが視えないのよ。もし霊と戦うなんて事態になったら、それこそわたしには成す術無しだからね。一旦退却して、水沢さんに助けを求めるしかないかな。ただでやってくれるかは微妙だけど」
あれこれと考えだすと、立ち止まりたいくらい不安になってしまうため、裕子を楽にさせてあげたいという想いだけでどうにか心を保ちつつ、わたしは病院へ向かい歩き続けた。