救うべき想い 34
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大石くんが入院している病院へ行くのは、翌日の夕方ということで話がまとまった。
大石くんの家族がお見舞いに来るのは、いつも午前中か遅いときでも午後の二時くらいで、大抵は夕方四時の時点では帰宅していることがほとんどだと裕子が教えてくれた。
それなら、学校が終わって暫く時間を潰した後に会いに行くのが最適だと、単純な判断を下した。
ひとまず普通に学校へ行き、普通に授業を受けて放課後を迎え、わたしはスマホで時刻を確かめた。
「そろそろ病院に行っても大丈夫そう?」
学校と病院のちょうど中間地点にある雑貨屋で暇を潰していたわたしは、周囲をふよふよと動き回っていた裕子へ小声で話しかける。
“うん。ただ、看護師さんに見つかると、病室に入れてもらえないはず。そこだけ注意して。夕食の時間が六時からだから、その前に会った方が良いかも。それと、ヒナはわざわざ声を出さなくても、心の中で話しかけてくれれば私は聞き取れるよ”
「それはわかってるけど、どうしても癖でね、喋っちゃうわけよ。周りの人に見られたら、絶対に変な人だと思われちゃうんだろうけど……」
運が良いと言えるのか、ひとまず近くに人がいないため、小声程度なら今は出しても問題はない。
「じゃあ、そろそろ行こうか。あぁ……でも本当に大丈夫かなぁ。これでうまくいかなかったら、病院のルールを破って勝手にお見舞いに来た迷惑な人になっちゃうなぁ」
“平気でしょ。もし何か言われたら、どうしても翔のことが心配で~とか、じゃなきゃ部屋間違えましたーみたいなこと言って、誤魔化しておけばオッケーだよ”
「裕子は当事者じゃないから、この不安と緊張感がわからないのよ。大体、大石くんだって困惑させちゃうかもしれないでしょ。ほとんど面識のないわたしがいきなり現れてさ、わたしの手を握ってください。そうすれば裕子とお話ができます。なんて言われて、よしわかったみたいな展開になる?」
“なるなる、大丈夫”
「……あんたね、適当な返事にも限度ってもんがあるでしょうよ」