救うべき想い 27
「いや、天井から顔だけ出してる方が遥かにおかしいって」
スゥ……と天井をすり抜け下りてくる裕子を睨むようにして見つめながら、わたしは呻く。
「やぁ、蟻塚さん。いらっしゃい」
“あ、どうもお邪魔します。勝手に入って来ちゃってすみません”
「構わないさ。気を楽にするといい」
朗らかに挨拶をする水沢さんと、そんな水沢さんを見て裕子の霊が来たことを察した様子の沙彩さんを横目に、わたしは探るような声音で裕子にここへ来た理由を訊ねる。
「それで? わたしの家ならともかく、どうしてわざわざこっちに来たの?」
水沢さんへ仕事の依頼に、なんてことはあり得ない。十中八九、わたし個人への用事だろう。
“うん、まぁ、さっきまで翔の所にいたんだけど、どうしても気が重くなっちゃってさ。これは一旦ヒナの元へ避難して、気力をチャージしないとと思ってね。あ、もう死んでるから気力じゃなくて霊力かな?”
わざとらしく口元に人差し指を当て首を傾げてみせる裕子へ、わたしも同じように首を傾げて返す。
「気が重くなる? 大石くん、また何か問題が起きたの?」
“うん……。翔、今は大人しく療養してるけど、まだ自殺を考えてるみたいで。このまま退院しても、また同じこと繰り返すんじゃないかなって心配でね”
話しながら、裕子は徐々に表情を曇らせ、最後には苦しそうに口元を歪める。
“私の死が原因で、あんな風になっちゃったからさぁ。責任って言うか、自分がしっかりしていれば死なずにすんだわけだし、何か頭の中が冷静になると、自分は滅茶苦茶周りに迷惑かけてんじゃんって気づいて。それも、取り返しがつかないじゃ済まされないくらいの。だからせめて私にできること、助けてあげられることがあるのなら、やれるだけのことはしてあげたいって思うんだけど、こんな身体じゃ見てることしかできなくて、正直今はそれがすごく苦しんだよね”
そこまで一気に本音を吐露して、裕子は親の顔色を窺う子供のように、上目遣いにわたしを見つめてきた。
確実に何かを訴えている眼差し。
それを直感で理解して、わたしはほとんど反射的に口を開いた。