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救うべき想い 21

 あれほど大きな悲鳴でも、周囲には一切の変化が生じない。


 やはり幽霊の声というのは、霊感のない人の耳には届かないものなのだなと、冷静であろうとする頭の隅でそんな考えが浮かんで消える。


 室内を覗き込む裕子は、数秒間ほど混乱したようにその場でオロオロした動きをみせた後、飛ぶようにしてわたしの元へと戻ってくると、


“ど、どうしよう! 翔が……翔がっ!”


 と、あからさまに取り乱した様子で、二階のベランダを指差してきた。


「落ち着いてよ。いったい何があったの?」


 嫌な予感がまとわりつく。


“翔が……! じ、自殺……”


「はぁ!?」


 裕子の言葉をスイッチにして、わたしは意識が判断を下すより先に、目の前のインターホンを鳴らしていた。


 異様に長く感じられた数秒間の間を空けて、母親と思しき女性の声が返ってきた。


『はい、どちら様でしょう?』


「あの……! 突然すみません! わたし、えっと……大石くんの友達なんですけど、大石くんに大切な用がありまして、すぐに会わせていただけませんか?」


 我ながらぐだぐだな台詞だなと、もどかしくなる。


『お友達?』


「はい。わたし、瓜時と言います。昨日亡くなった友達のお通夜に、一緒に行きたいと思いまして。友達のご両親にも、是非最期のお別れに来てほしいとお願いをされたんです」


『まぁ……』


 早口で捲し立てるわたしの言葉に、インターホンの奥からあからさまに困ったような声が返ってくる。


 いきなり大石くんが部屋で自殺を図っていますなんて伝えても、かなり悪質な悪戯だと受け取られかねない。


 まずは、どうにかして玄関を開けてもらわなくては、大石くんを助けることなど叶わない。


「ご迷惑でなければ、少しだけでも本人とお話をさせていただけませんか?」


『……わざわざ来てもらったのに申し訳ないんだけれど、翔……朝からずっと部屋に閉じこもりっぱなしで、声をかけても出てこないのよ。食事もしていないし』


 逡巡を含ませた声音で返答を告げてくるおばさんの声に、わたしはもう一押し必要かと更に言葉を追従させる。

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