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救うべき想い 19

「えっと、それはつまり……裕子の死をあまり引きずらないで、大石くんは自分の人生を前向きに生きてほしいとか、そういう意味で良いの?」


“そうそう! だってさ、嫌じゃない? 自分の好きな人が、自分のせいで悲しみにくれるのって。大切な人には、いつだって笑っててほしいじゃん! その方が、こっちもハッピーで安心して天国でも地獄でも行けるってもんよ”


「いや、地獄は行っちゃ駄目でしょ。裕子はちゃんと天国に行けるよ」


 さらっと酷い自虐を絡めてくる親友へそんな突っ込みを返して、わたしは一度おばさんの元へと移動する。


「すみません。そろそろお母さんが迎えに来ることになっていますので、失礼致します」


 慣れない敬語をたどたどしく告げて頭を下げると、おばさんとその隣にいたおじさんが同時に微笑みながら頷きを返してくれた。


「今日は裕子のために来てくれて、ありがとうね。気をつけて帰ってね」


「陽菜乃ちゃん。娘……裕子と仲良くしてくありがとう。裕子も、家ではよく陽菜乃ちゃんの話を楽しそうにしていたよ。裕子は陽菜乃ちゃんのおかげで、良い思い出がたくさんできたと思う。本当に、ありがとう」


「いえ、良くしてもらったのはわたしの方です。それに……これからも、仲良くしますよ」


「え?」


 わたしの告げた言葉の意味を図りかねて、おじさんとおばさんはきょとんとしたように、わたしを見つめてきた。


「生きてるとか死んじゃったとか、友達であることにそこは関係ないってわたしは考えてますから。だから、たとえもう会えなくなったとしても、裕子はわたしにとってずっと大切な親友です」


 特に気を遣ったわけでもカッコつけたわけでもない、裕子に対する純粋な想いを語っただけのつもりだった。


 だけど、おじさんとおばさんは顔をぐしゃぐしゃにしながら何度もお礼を告げて、わたしを外まで見送ってくれた。


“いやぁ……ちょっと、どうしよう。私、感動しちゃった。えー、もうヒナっちのこと大好きになりそう。結婚でもする?”


 おじさんとおばさんが斎場の中へ戻っていくのを見届けて、夜の帳に包まれてしまった道を歩き始めたわたしのすぐ横で、裕子はまんざらでもない声でおかしな発言を放ってきた。


「いきなりどうしたの? てか、ちゃんと大石くんの家まで案内してよ?」


“うん、もちろんするけどさぁ。まさかヒナがあそこまで私のことを想ってくれてたなんてさ、嬉しくなるよねぇ。でも、普通言える? 本人目の前にいるのに、ずっと大切な親友ですなんて。私はたぶん難しいかな。絶対に照れちゃうね。ヒナやおじさんたちの前で、あんなにはっきり言える自信はないよ。もちろん、親友とは思ってるけど、それ故に恥ずかしいってなるよ”


 まるで、彼氏に結婚を迫られたみたいなテンションになる裕子へため息を吐きつつ、わたしは「大袈裟だよ」と言葉を返す。


「当たり前のことを言っただけでしょ? 誰が相手だって同じじゃない。例えば、自分のお母さんが死んじゃったとしてもさ、お母さんはお母さんであることに変わりはないはずでしょう? 死んだから、この人はもう関係のない他人です、なんてなるわけがないんだし。だから、死んだとしても裕子は裕子。ずっとわたしの大切な親友だって話をしただけ」


“そういうことをさらっと言えるところがすごいのよ、ヒナっちは。ああ……私もう今すぐに成仏しちゃっても悔いないかも。ヒナっちと出会えた私は幸せ者でした”


「いや、まだ行かないでよ?」


“冗談ですよ”


 勝手に天へ昇るような仕草をしてくる裕子を、不安になりかけながら引き止めつつ、わたしたちは生きていたときと同じように笑い合った。

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