第4話 “蓋ノ騎士団”
夜中、ビョークから電話がかかってきた。
俺は黒電話を耳に押し当てた。
「死体はなくなってました」
「グラウンドまで行ったのか?」
「はい」
「そっか……」
「チユさんの様子は?」
「寝てる」
敷布団で眠っているチユの寝顔が見えた。
「彼女の親は、どうしてチユさんを殺そうとしたんでしょうか?」
「多分、俺と同じだ。“風無し”だと思う」
「……なるほど」
「本当はチユを食べさせるつもりだったんだろう。死体を隠せるしな」
「皮肉な話ですね。食べられたのは自分たちの方だったわけですか」
「昔はすぐそこの山んなかで殺してたんだぞ、知ってたか?」
「知りませんよ。僕はこの土地の人間じゃない。あのグラウンドへは、もう二度と行かないつもりでした。フォソーラとイカルガさんを思い出すので」
「悪かったよ」
「ハルタさんの気が知れません。いつまで狩りを続けるつもりですか」
「この町にいる間だけだ。さっさと計画を進めよう」
「こっちのセリフですよ。女の子を攫ってきておいて」
「攫ってきたわけじゃ……」
二人して黙った。
「似てるだろ、イカルガに」
「ええ。びっくりしました。顔に出さないようにしましたけど」
「似てるなんてもんじゃない」
「同じ顔ですね」
「声も同じだ」
「そうですか?」
「12歳の頃のイカルガと同じだ」
「変な気おこさないでくださいよ? あなたは一九歳。彼女は数えで一二。まだ子どもです」
「わかってるって」
「ハルタさんが頼んだんですよ? イカルガさんを生き返らせてくれって、協力してくれって……」
「わかってるって」
「巻き込むつもりですか? ばれたら僕は教会を首になる」
「でも熱線の吐き方を教えないと、イカルガみたいに暴発する」
「そこは任せます」
「教えていいのか?」
「教えたいんでしょ? 構いません。そうだ。しばらく学校へ通うよう伝えてください。変に怪しまれたくないので」
「わかった」
「何かあれば言ってください、協力はします」
「悪い、助かる。その、チユのことだけど……誰かにバレたりしないか?」
「バレる?」
「死んだ両親のこととか」
「バレませんよ。死体はないんです」
「蓋ノ騎士団は?」
受話器の向こうから浅い笑い声がした。
「蓋ノ騎士が動いたら、僕らは終わりですよ」
〇
夜中のグラウンドにしゃがれた声が響いた。
人の黙らせた方をわかっているような、寒々とする声だった。
「おまえらだろ、あれ」
「知りません」
潜りは地べたに正座させられ、襟を掴まれた。
襟をつかんでいるのはクリーム色のコートを着た男だった。
同じ装束の者が他に二人いる。
三人とも、右腕に丸い盾を携えている。
「じゃあ誰がやった」
夜中の姥捨照小学校。
グラウンドから見える北門の端が、大きく歪んでいた。
門と隣合わせの塀が融解し、黒くなっている。
「脚家隊長、盾を見つけました」
追悼花壇の方からひとり走ってくる。
「登録番号を調べろ」
「はい」
男がふところから紙を出して破いた。
光の粒子が散り、収束するとそれは黒電話になった。
線はつながれていない。
受話器を手に取り、どこかへ電話をかけた。
「あの子連れのだろ」
潜りの一人がぼやいた。
「子連れ?」
脚家は聞き逃さなかった。
「俺らもよくわかりませんけど、多分……」
「余計なこと言うな」
別の潜りが遮った。
髪を掴み、脚家は顔を近づけた。
「余計はおまえだ、おっさん」
「どうせ俺らは監獄行きだ。だろ、兄ちゃん」
脚家は潜りを殴りつけた。
「おい、こいつら三人とも蓋をしておけ」
「蓋を?」
「蓋をする必要があるんですか?」
「極秘だ」