5 黒野枢はアルバイトを見つける?
キャンプマットのおかげで安眠をゲットした翌朝。
手持ちのお金は残り1000円。
一年生活するにはとうてい足りない。毎日同じ店でデカ盛りチャレンジするわけにもいかない。
どうしたものか考えて、キャンプマットを紹介してくれた店員に聞いてみた。
「人の世でお金を稼ぐのはどうすればいい?」
「中学生なら、親御さんのお手伝いをしてお小遣いをもらえばいいんじゃないかな。アルバイトは中卒からだし」
「ふむ」
あいにく神の力を借りてはならないことになっている。
となるともう一つ提示された、アルバイトというものをするしかない。
中卒というのが何なのかわからないから、その問題は横に置いておく。
商店街を歩いてアルバイト募集中の張り紙を見つけて、店に入る。
数件店を回ってみたが、見た目が中学生の枢を雇ってくれる人はいなかった。
"コウコウセイ"がアルバイトするにしても、身分証明書、親の許可というのが必要らしい。
五軒目のコンビニを出て、とぼとぼと歩く。
「うーん。これが現代の人間というものか。もう僕の知っていた時代の人間とは違うんだな」
困りはてて近くのベンチに腰掛けると、近くで井戸端会議していたおばあちゃんたちに声をかけられた。
「坊や、さっきからあちこちの店に仕事をくれと言っているんだね。どうしたんだい? お金が必要なのかね」
「一年、神族の力を使わずにここで暮らせと言われたんだ。でもみんな、子どもを雇うのはホウリツ? 違反だからと言って仕事をくれない」
枢の説明を聞いておばあちゃんたちは震えた。
(親族に頼っちゃいけないだって!? こんな子どもをほっぽりだすなんてとんでもない親じゃないか!!!! 育児放棄じゃないか!? あたしらがなんとかしてあげないと!)
「坊や。うちの店先をホウキではいてくれないかね。あたしゃ最近腰が痛くて掃除も大変なんだよ。アイタタ。よる年波には勝てないねぇミヨちゃん」
「大変だねぇソノさん。私もなんだよぉ。窓を拭いてくれるいい子はおらんかの」
ミヨおばあちゃんとソノおばあちゃんは、それぞれ腰が痛い足が痛いと言ってせつながる。
「それはたいへんだ。僕、手伝うよ」
枢は頼まれるままに、おばあちゃんたちの店の掃除をしていく。
ホウキで落ち葉を集めて、雑巾で窓を拭いて、ピカピカにした。
「ありがとうねぇ坊や。これ、掃除してくれたお礼にもらっておくれよ」
「いいのかい?」
ミヨおばあちゃんは銭湯の無料入湯券。
ソノおばあちゃんは店の駄菓子をたくさんくれた。
駄菓子というものも、初めて見るものだ。
さっそくベンチに座り、お菓子の一つを食べてみる。
手のひらにすっぽり収まる小さなヨーグルトっぽいやつだ。
フタを剥がして木のスプーンを差し込んで、白いクリームをすくい取る。
「うまい」
不思議な甘みと柔らかさ。くせになる味わいだ。
そして次なるお菓子。白いおせんべいにはジャムが付属している。
「これはね、ジャムを塗りながら食べるんだよ」
「ふむ。うまい」
せんべいに赤みの強いピンクのジャムを塗り、かじる。
甘酸っぱい。
こんな調子でもらった駄菓子を一つ一つ味わっていたら、通りすがりの人たちがチラチラと枢の方を見る。
「うわ、懐っ。あのヨーグルトまだ売ってるんだ。俺も買おっかな」
「あのおせんべい久々に見たわー。てかあの子チャーハンでバズってた子!?」
幼い頃にこのお菓子を食べていた人たちが次々にソノおばあちゃんの店に入っていき、写真をとってSNSにのせる。
あれよあれよとお客さんが増えていき、狭い店内はおしくらまんじゅう状態になる。
ソノおばあちゃんの店は今年一番の売上を叩き出した。
売上に貢献したからと、おばあちゃんは枢に抱えきれないくらい駄菓子をくれた。
「これがアルバイト……」
明らかに違うのだがツッコミはいなかった。




