4 黒野枢の裏側、おまわりさんに連れて行かれたゼウス①
チャーハンを平らげたあと、枢は公園に戻ってきた。
お店で断熱マットを買ってきたのだ。
公園の地べたに敷いて、寝ぶくろに潜り込みねころがる。
「ああ、なんて快適なのだろう。人間の技術の進歩には目をみはるものがある」
見た目中学生の枢が明るい時間からこんなところで寝ぶくろに入りねころがる。
本人はわかっちゃいないが、とても、とても目立つ。
さっきのデカデカチャーハン完食動画が知らぬ間に某動画サイトにアップされバズってることなど1ミリも知らず、すやすやと寝息をたてはじめた。
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その頃ゼウスは、警官に神の力で作った身分証を見せて難を逃れていた。
「ええ、はい、両親はギリシアの人間なんです。俺はギリシアのクレタ島出身で。だからゼウスは本名で、決して源氏名じゃないです。親戚の子が心配で見ていただけで……やましいことは何もありません」
「ああ、そうなんですね。ギリシアのご出身で、今は歌舞伎町にお勤め。日本語お上手ですね。お仕事大変ですねぇ」
神の力でテナント主の記憶やら書類あれこれ有耶無耶にして、歌舞伎町に自分の店を作った。
ゼウスの店『バー・オリュンポス』はオープンから三周年を迎えている──ということになっている。
逮捕回避のために、神の力を無駄遣いしまくった。
交番までゼウスを迎えに来た妻、ヘラは残念なモノを見る目をしている。
「バカねぇゼウス」
「バカって言わないでくれヘラ。君に変質者と間違われた俺の気持ちがわかるか!!」
「小さい子が駆け回る公園で子どもたちをじっとみていたら、そりゃあ疑われるわよ」
「たまたま親父の手前に小さい子どもたちがいただけだ。近年の人間は警戒心が強すぎやしないか。俺、世界を統べていた神なのになんで人間に逮捕されてるんだ??」
「全知全能ならもう少し考えて行動しなさい」
「スミマセン」
神の力を駆使して手に入れた自分のバーに行き、ゼウスはビロードのソファに体を沈めた。
これまた神の力で手に入れた年代物のワインのコルクを抜いて、グラス二つに注ぐ。
ヘラは隣に腰を下ろす。
「ゼウス。なんで今になって父さんを人の姿にして町におろしたの? 何千年も地底に幽閉していたのに」
「親父が釈放してくれと言ったからさ。レイアーに会いたいんだと。だから人間社会に溶け込んでみせろと、あの仮の体を与えた」
レイアーはクロノスの妻であり、ゼウスとヘラの実母だ。
クロノスはかつて神々の戦いでゼウスに破れ、牢獄に囚われて以来、ひとりで幾年何もない空間で過ごしてきた。
「外に出たい理由が母さんに会いたいから、なんて。熱いじゃない。ゼウスも父さんを見習いなさいよ。あなたスキあらばそこらの女に目移りするんだから」
ワイングラスを傾けて、ヘラは小さく笑う。
浮気百回超をストレートに非難されて、ゼウスはむせた。




