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3 黒野枢はデカ盛りにチャレンジする。

 今の人類はお金というものがないと生きていけないらしい。

 枢は考えながら街を歩いていた。


「……お金を得る方法」


 そして、目の前の立て看板に貼られたポスターに目を向ける。


── 『まんぷく亭 30分で完食できたら3000円進呈! 失敗したら3000円支払い!  デカデカ盛チャーハン挑戦者求ム!!』


「食べたらお金がもらえるのか」


 枢は静かに頷き、店の扉を押した。




「……坊や、本当にやるの?」


 店員の女性が不安げな表情を見せる。


「何か問題が?」

「大人の男性でも完食できる人はひと握りなのよ。ほらこれを見て」


 店員が指さす先には、手書きポスターがある。

 そこには過去の挑戦者の成績が記されていた。


── 累計成功者:3名 / 挑戦者数:78名


「三人も成功しているのか。なら問題ない」


 店員は奥に消え、店主らしき大男が姿を現す。

 いかつい顔に、鋭い眼光。

 筋骨隆々の腕を組み、枢を見下ろした。


「……挑戦するのか、小僧。冷やかしでなく」


「お金がない。これを食べたらお金がもらえる。キャンプマットを買えば快適に眠れる。だから食べる」


 これから一年、快適な眠りを得られるかどうかはこれを食べきるかどうかにかかっている。


 店主は静かに頷き、厨房に向かって叫ぶ。


「デカデカ盛り、入るぞォ!!」


 ゴォォォォッ!!! カンカンッ!!!


 厨房から中華鍋を振る音が響き渡る。


 そしてーー


「お待ちどう! デカデカ盛チャーハンだ!」


 ドンッ!!


 枢の目の前に、巨大なチャーハンの山が置かれた。

 山が大きくて向こう側が見えない。


 枢はしばし、その料理を観察する。

 香ばしい匂い、黄金色の米、そして油の艶……。

 生まれて初めてチャーハンを見た枢は目を丸くする。


「これがチャーハン」


 枢はレンゲを手に取る。店主はストップウォッチのボタンを勢い良く押す。


「三十分チャレンジ、スタート!」





 三分経過。


 枢は無心にチャーハンを口に運ぶ。

 とても高い山なのに動じることもなく食べ進める。


「うまい」


「お、おい……あのガキ、普通に食ってるぞ……」


 店内の客たちがざわつき始める。


 五分経過。


「足りない」


「な、何ィ!? まだ五分なのに半分以上食べただと!!? テレビに出るフードファイターですら苦戦してリタイア者が出たいたのに」


 観客の視線が集まる中、枢はひたすらに食べ続けた。


「店長、すごいですあの子! 残り五百グラム切りました!!」

「なにィ!? あの小僧、化け物か!!?」


 大人も食べ切れないような超特盛りを、十代前半の子どもが食べきろうとしている。

 ざわつく店内。全員が枢に着目している。

 スマホで動画撮影する者までいる。


 そしてーー

 枢は静かに、最後の一口を飲み込んだ。

 店主は震えながらストップウォッチの停止ボタンを押した。


「……九分三十秒!? 最速記録だ!!」


 店内が静寂に包まれる。


 そして、次の瞬間ーー


「お、おおおおおおおお!!!!」


 歓声が響き渡った。


「伝説が生まれたァ!!!」

「最速記録だと!? なんなんだこのガキ!!」

「オレは歴史的瞬間を見たぞ!!」


 店主は震える手で財布を取り出し、枢に三千円を差し出した。


「……まさか、本当に成功するとはな。持っていきな、坊や」


 枢は受け取った紙幣をじっと見つめた。


「これが『お金』というものか……。初めて見た」

「何言ってんだ? まあとにかく、達成者はここに名前を記すことができるんだ。あだ名でもいいんだが、教えてくれるか?」


 店主の問いに、枢は静かに答えた。


「僕はクロノス」

「黒野、枢。かなめって漢字かな。よし書いたぞ」


 音が日本人名に近いから、みんなには黒野枢にしか聞こえないのである。

 店内に歓声が沸き起こる中、枢は拍手で見送られて店を後にした。


 クロノス。

 かつて「お前は我が子に殺される」と予言され、生まれてきた我が子を五人、丸呑みにした神だ。

 デカ盛り料理を平らげるのは楽勝だった。

なおゼウスはおまわりさんに連行されて交番にいる。

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