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異世界令嬢

娯楽に恋を求めた結果、側近から不意打ちを受けてしまいました

 よくある聖女召喚的なアレで、「来たれよー!」みたいにピッと呼び出されたこの私。

 唯一つの向こう側の失敗としてはさ、呼び出したいのは一人だけだったってわけ。


 まさか偶々道端ですれ違っただけの私まで巻き込んでしまうとはね。お釈迦様もビックリ!

 異世界の宗教的にお釈迦様とか言っていいのか知らないけどさ。


 そんな感じ私は中澤希実。”のぞみ”じゃないよ”まれみ”だよ。花も恥じらう華のOL、二十八歳。

 最近花粉症で鼻炎がびえんな悩みを抱えちゃって困ってる。花だけに鼻ってか。


 ま、そんな私の正体だなんてどうでもいいわけさ。そんなこんなで那奈夢ちゃんと一緒に女二人仲良く過ごしてぜ!


 ちなみに、那奈夢ってさ本当の聖女様なアレなわけよ。

 この手のパターンって聖女は外面だけ異様によくて中身は一度も洗ってない排水管ばりにベットベトに汚なかったりするんだけども、いやこの子ほんといい子なのよ。


 自分だって無理矢理呼び出されたってのに、巻き込まれた私の心配して申し訳なさそうにしてさ。

 となったらそこは年上の私! あんまり気遣わせるわけにもいかないから、セクハラ課長の顔面ぶん殴った後だったし会社に顔出し辛くなって困ってたから気にすんなよって感じでまあるく収めちゃって。


 まあちょっと嘘言っちゃったけどもさ。

 本当はパンチじゃなくてハイキックだったのだけども私ってばこれでも女の子だし、はしたないかなぁって。


 とまあそんな感じであらすじ終わり。

 あれからこっちきてもう三年でーす。向こうでの仕事とか私生活とか今更考えても仕方ないね。

 二、三ヶ月に一回掛かってくるお母さんからの彼氏出来たか電話と縁が切れた事だけは心からよかったけども。


 可哀想なのは、那奈夢ちゃん受験生だったんだよね。本人はもう気にしてないみたいだけど。

 彼女ももう二十一か、大人になっただなぁとお姉さん感心。


 ここに来てからは衣食住を完全に世話して貰ってるから、至れり尽くせりなのはいいのだけど……。


「やる事が無いってのはいかんよ。心の炎はすっかりシケちゃった。後は老いてボケるだけかぁ、やだなぁ」


「……何をおっしゃってるんですか?」


 と、私の独り言に割って入って来た若いイケメンの声がある。

 そのイケメンは声もイケメンならば顔はなおイケメンで、ならば体はブヨブヨかと思いきやガッチリイケメン筋肉でそのくせ線は細い着やせ型で高身長という、都合の良さまでイケメン的なイケメンさんである。

 これで金遣いが荒いだとか、女泣かせの遊び人とかでもなく品行方正で心も姿勢もイケメンだとか。


 いっそなんか嫌味ったらしいくらいのイケメンなのだよ。

 そんな彼の名前は――。


「ちょっとエーくんってば独り言に返事するなんて失礼しちゃうわね。いい? 乙女の独り言とは艶やかな吐息。小鳥のさえずりの如き清らかさがあるのよ。そこは黙って聞き流すのがマナーよ、これってモテるコツだから」


「は、はぁ。それは申し訳ありません」


「でもね、完全に無視してもダメ。その言葉の中には微かの望みと儚さがあるの。艶があるからこそ男の子はそこを察知してそれとなく本人に気付かせることないように寄り添う必要があるの」


「そ、そうなのですか? それは、そのぉ、勉強になります。……おそらく」


 困惑しているエーくんことエドゥアールくん。名前までイケメンなのが憎い。

 ただ一つ言うなれば、これらは私が学生の頃に見た雑誌に書いてあっただけの受け売り。

 あんな編集が耳でもほじりながら適当に考えたような冗談みたいな恋愛テクを真に受けていたあの時の私。何処に行ったんだろうあの時の純情? 世間の荒波でどんぶらこしちゃってもう見つけられないや。


 でもさ、そんな事はどうでもいいの!

 このままじゃ乾いちゃう問題が勃発してるってのよ。


 お詫びって事で殆ど国賓扱いで何もする事ないからってさ、これじゃいかんぜ人間ってヤツァ。


 こちらにおわす付き人のイケメンエーくんをからかって遊ぶのもね。流石にそればっかりってのも。

 ……そうだ! なんで今まで思いつかなかったんだろう!


「エーくんってばさ、恋人居ないんだっけ?」


「え? えぇ、まあ。僕は次男という事もあり、家の事情にあまり縛られる立場ではありませんから。婚約者もおりません」


 きっぱり言ってるけど、実はこの考え方って貴族社会じゃそこそこ珍しいらしい。

 例えば、貴族に付きものの婚約関係。

 大抵の場合十八までには婚約。遅くても二十歳までには婚姻。

 貴族間の結婚は早いと十六にはもう行われるらしい。


 なのに彼ってばもう二十三、本人が恋愛関係に疎いのもあってか未婚なのだ。もったいない。


 そう、ここに私のすべき事がある! エーくんと飛び切りの美人をくっつけさせるのだ!


(やはり恋愛! 恋愛は全てにおいて優先される最高の娯楽!)


 やっぱ潤いといえば恋っしょ! 他人の恋を成就させるのは楽しい事なのだ。

 だったら自分の面倒も見ろって? それが出来たらこの歳まで独り身じゃねぇんだよ。

 彼氏いない歴二十八年を舐めんなよ!


「でもさ、やっぱりいつかはって考えない? ほら御両親だってお孫さんの顔とか見たいと思うんだよ」


「しかし、孫ならばもう兄夫婦が……」


「いやいやいや、そういう事じゃなくてさ。それはそれ、これはこれでしょ。お兄さんのお孫は勿論可愛い。でもエーくんも結婚して安心したいし、その可愛いお嫁さんとの愛の結晶だってやっぱ見たいってそりゃ。そういうもんなのよ親は」


 なんせ実体験、私の姉が結婚して子供産んだから余計に恋人関係を聞かれるようになっちゃった。

 あれ? もしかして私ってお母さんと同じ事してる? いやまさかぁ。


「……確かに、そうなのかもしれません。面と向かって言われた事はありませんが、姪が生まれたあたりから両親の雰囲気が……とりわけ母が妙にこちらの近況を聞いてくるようになりまして」


「それだよ! いや間違いないね。エーくんにも早く奥さんが出来たらいいなって思ってるね。でさぁ、ぶっちゃけ気になってる子とかいない訳? 私の知ってる子とかだったら間に立って取り持ってあげる。大丈夫だって、相手に気付かれないようにエーくんに誘導してあげる」


「気になる女性ですか……。そうですね、まったく無いとは言いませんが」


 ほう! これは意外にも素直な回答が来た。

 エーくんってばいわゆるお堅い騎士様でもあらせられますからね、顔を真っ赤にして「そ、そそそそそのようなものっ!」とでも言うかと思ったけど。


 いいじゃんいいじゃん。もうどんと来いよ。こんなイケメンさんに惚れられてるなんて果報者が世の中にはいるもんなんだなぁ。


「私ってばその子知ってる感じ?」


「そうですね、きっとよくお知りだとは」


「へぇ。これだけでも絞られたぞ……。じゃあさ、その子ってエーくんが気になってるって気づいてるのかな?」


「いいえ、まったく。そのような素振りを見せた事は一度もありません」


 ? いやにきっぱり言うんだな。なんか意外。

 あの真面目なエーくんがこうまで言うなんて、気心の知れた仲って事かも。


 私のお世話をしてくれてる専属メイドのシャンタルちゃんかな? あの子奥手だから確かに気づかないかも。

 それともエーくんと交代で護衛をしてくれてる女騎士のリディアちゃんとか? 同期らしいし、だったらこの線もあり得る。


 そして一番あり得るのが、そう那奈夢ちゃんだ。やっぱ聖女様だし、聖女の仕事の護衛をする事も多い。他の騎士よりずっと接近する機会が多いのだ。それにやっぱ若い騎士と聖女のカップリングが王道ってもんよね。


(どれもいいな。でも誰が相手でも応援してあげちゃうぜ!)


「その人が僕から気を持たれている、というのは非常に意外に思われるかもしれません」


「そうなんだ。にしてもエーくんから好かれてるってのに気づかないなんて鈍感さんだな。大丈夫だって、うまいこと取り持ってあげるって。まま、当然ここだけの話にしといたげるからちょっと教えてよん」


「……名前を言っても驚きませんか?」


「大丈夫大丈夫! 何が来ようと、この厚い胸でどんと受け止めてあげようじゃないか! ま、大きさには自信は無いけどもさ」


「…………では」


 エーくんってば息を整え、目つきが真剣になる。

 ただ好きな人の名前を教えるだけなのにね、やっぱ真面目さんだな。


「僕がお慕いしている方は――貴女です」


「? アナタなんて人居たっけ? ちょっと待って今思い出すから……。えぇっと――」


「いえそうではなく! このエドゥアール――マレミ様、貴女様を一目見た時から心を奪われました。この身は貴女様の為に、そして貴女様に尽くすために生まれてきたのだと確信するに至りました。どうか、このエドゥアールの愛を受け入れては頂けないでしょうか」


「…………ふぇ?」


 ……………あ、そうか! ドッキリだな!

 なんだそうか、つまり私は先手を打たれたんだな。もうみんなしてさぁ。


「わかったわかった、私の負けだぜ。もういいからみんな出て来てよ。那奈夢ちゃ~ん、主犯は君でしょもう」


「いえ誰も居ませんよ。勘違いをなさってるところ申し訳ありませんが、全て僕の本心です」


「ぁっ、ぇ……? いや、いやいやいや! そんな事言っちゃってさあ、え? エーくんってばジョークも言えるようになっちゃって。その成長はビックリだなぁ。なんて」


「……………」


 な、何その真剣な目? 嘘、ガチな訳? いやでもそんな素振り今まであった?!

 どこでどうしてそうなるの!? 何? 何が起こってるのよ!!?


「そ、そんな事言ってもさ! いきなりそんなんついていけないかなぁって。もうあんまりからかわないでよぉ。ホントだってんならここでキスしてもいいけど? な~ん――ッ!?」


 て。って言おうとしたのだけれど。唇に感じる全く知らない感触。

 異様なまでに近い目と目。その目は見たことも無く熱い。いや知らないこんなの!!


「――こ、これが僕の真剣な気持ちですっ。許可を頂いた通りにこの唇を貴女へと捧げました。ど、どうでしょうか?」


「あっ、あ……………。わあああああああああ!!!!!」


 途端、動き出すこの足の赴くままに部屋の扉を蹴り開け、勝手に出る大声のまま城内をダカダカと駆け巡る私。いや本当に私? いや本当に私!

 これは私だ。私の体が、心と関係なく動いた結果がこの奇行なんだ!!


(な、なんだこれ!? こんな風に体を動かすのは中学の頃にクッソ恥ずかしいラブポエムを書いて直ぐ破いた時以来だ!! なんでこんな?!)


 とか考えても体は止まる事なく動き続けるのであった。




「おや、今のは?」


「ナナム様、今目の前を駆けて行ったのはマレミ様では……」


「ええ、そうねシャンタルさん。……なるほど、ついに。ふふ……」


「ついに、という事はエドゥアールの奴は想いを告げた。という事か?」


「ええ、きっと。リディアさんってば、ヤキモキしてましたもんね」


「同期だからと、それとなく相談されていたからな。これでやっと肩の荷が下りそうだ」




 ああああ!! 今誰かとすれ違ったような気がする!

 こんな姿見られるなんて、これが三十手前の女の行動かよ!!


(クッッソ!! 二十八年間も男を作らなかったツケが今更回ってきた!! 今度からどんな顔して会えばいいんだよもう!!!)

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