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不完全な双子と完璧な世界  作者: 白色一色
Chapter.1 不完全な双子と新しい冒険
7/44

1-7

「さぁ、こっからはルピス次第だ」


 バスチーはそう言って、宝箱から腰を上げた。


「アイツらを喰うか、私たちを喰うか、だ」


 バスチーは冷たい目で、見下す様に選択を迫る。

 宝箱型の魔器亜(マギア)はバスチーの予想通り、人の血肉を喰らう。餌となるのは集められた冒険者たち。それはこの場所で、何度も何度も繰り返されてきたはずだ。


「ボ、ボクは……」

「おいおい、今更罪悪感に苛まれてるのか? 後悔なんて物に意味はない! 一度走り出したなら、進み続けるしかないんだよ!」


 躊躇するルピスのことを、バスチーは天を仰ぐ様に体を反らせてけたけたと笑った。

 魔器亜(マギア)を使役させられるのは、たった一人の契約者のみ……つまり、冒険者たちの命を奪い続けていたのは、他ならぬルピスなのだ。契約者でない者が、肌身離さず魔器亜(マギア)を持ち歩いているはずがないのだから。


「ルピィィィス‼ 早くそいつらを飲み込めえ‼」


 ブリックスは叫んだ。ルピスの額に大粒の汗が滲む。彼女に選択肢はない……だが――。


「どんな風に脅されているのか知らないが……私たちなら解決できる」


 帽子の鍔を摘まみながら、バスチーはルピスにだけ聞こえる声で囁いた。


「もし、これ以上殺したくないんなら、せめてコイツらを楽にしてやれ……」


 それはバスチーが与えた、新たな選択肢。何故か、それを聞いてルピスは胸がすく思いがした。


「飲み込んで……【餓えた死海(パンドーラ―)】!」

 

 それが、ルピスの契約した魔器亜(マギア)の名。

 宝箱がガタガタと大きく揺れて、その口を開く。ジュルジュルと不快な怪音を響かせながら、触手の様な舌と柱の様に太い牙が幾本も飛び出す。それは明らかに宝箱に収まる体積を無視していた。

 伸びた舌先が絡めとったのは、双子でも兵士たちでもない。物理的に触れることすらできないはずの魔霊(ゴースト)たちだった。


「……ごめんなさい」


 ルピスは涙をためながら、そう呟いた。

 ものの数秒で宝箱は元の姿を取り戻し、蓋がパタリと閉まる。そして常に耳を刺していた呻き声は消え、空間に静寂が戻った。


「ルピス……人を喰わせねば、魔器亜(それ)は必ず暴走して国中の者を飲み込むんだぞ……! 貴様は世界を終わらせる気か⁉」


 ブリックスの怒りは、王国の平和を案ずるが故の物ではない。奴隷の様に思っていたルピスに、反旗を翻されたことが我慢ならないのだ。


「なるほどね」


 バスチーは、ルピスが典型的な手口で脅されていたのだと理解した。言うならば、一殺多生(いっせつたしょう)。しかし、犠牲者たちは決して悪人というわけではない。


「ボクはもう、人を殺したくない!」

「無意味な善意に振り回されやがって……。これだからガキは嫌いなんだ!」


 ブリックスはそう吐き捨てて、背負った大斧を抜いた。


「この俺様が他の兵士と同じように行くと思うなよ……! 【装甲強化(バフ・アーマー)】!」


 強化の魔術は、習得難易度の低い魔術でありながら、戦闘においては最も有用であると言える。ブリックスの詠唱は、その身に纏う甲冑の硬度を竜の爪すら通さぬ物へと変化させた。


「俺の出番だな」


 余計な口を挟まぬ様、体を小さくして座っていたバットが立ち上がった。ゆっくりと前進しながら、距離を詰める。

 ブリックスは大斧をくるくると回しながら、タイミングを計る。足場の状況やバットの歩幅を考慮し、ここぞという所でブリックスは駆けた。バットは無意識にその行動に同調して走り出してしまう。


(ド素人が! 勝った!)


 ブリックスは内心でほくそ笑んだ。そして最善の手を導き出す。大斧の縦振りは避けられた時の隙が大きい。対して横振りならば、相手が跳んだり身を低くして避けても、大斧を振り戻せば良い。互いに走り出した時点で、真正面からの勝負を受けて立ったも同然。そうなれば、武器を持つブリックスが圧倒的に有利である。


「シャアアラァ‼」


 その刃が届く距離。ブリックスの大斧はバットの脇腹に迫る――。


「……なん……だと」


 金属が割れる音と共に、ブリックスの顔面は青く染まって行く。

 バットは左肘と左膝で、真剣白刃取りを試みた。結果、白刃は取れず……その代わりに分厚い鋼は砕け散った。

 

「血の気は引いたか?」


 バットは上げた左足で踏み込み、右拳を甲冑の腹部に叩き込んだ。その技に呼称はない。ただ、力の限り拳を振り抜いただけの一撃である。

 声を上げることもなく、ブリックスは体をくの字にして十メートル以上先の壁まで吹き飛んだ。衝撃で立ち込めた砂煙が、その無様な姿を隠す。


 不死者(イモータル)は死の恐怖から解放された存在。当然、痛みという恐怖も忘れてしまう。本来、自身の肉体が破壊されない様に脳は人の力に制限を課す。しかし、恐怖を忘れた不死者(イモータル)にはその枷がない。所謂、火事場の馬鹿力をいつでも引き出せる状態にあるのだ。その精神性は、不完全であるバットも同じであった。


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