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不完全な双子と完璧な世界  作者: 白色一色
Chapter.1 不完全な双子と新しい冒険
6/44

1-6

 双子たちの進む最前線より二百メートルほど後方。兵士団が息絶えた魔蜘蛛(アラグネア)を発見した。


「死体があるということは、()()()()()いない様ですね」


 兵士の一人が妙なことを言う。しかし兵士団の誰もがその言葉の意味を理解していた。


「あの二人……何者だ?」

 

 団長のブリックスは、勝手に先に進んだ二人の冒険者が魔蜘蛛(アラグネア)を倒したのだと察した。集まったのはF級冒険者ばかり。群れで活動する魔蜘蛛(アラグネア)を倒すことなど不可能だ。死体が一匹であることから、他の魔蜘蛛(アラグネア)が逃亡するほど圧倒的な実力を以て倒されたことが分かる。


「どうせ飲み込まれると思って放っておいたが……厄介な奴らかもしれんな」


 ブリックスは、先を進む二人の冒険者を警戒するように部下に警告した。


「危険な魔物は我々が対処した! さぁ、冒険者諸君! 安心して付いて来給え!」


 ブリックスの大声は、迷宮(ダンジョン)中に響き渡る。冒険者たちは何も疑うことなく先へ進んだ。


「団長! あれは……」


 暫く進むと、兵士が声を上げた。その先には、幾人もの人が倒れている。


「急ぐぞ!」


 ブリックスは後ろの冒険者たちを省みずに走った。辿り着いた場所は、天井が高く広い空間。人の手が全く加わっておらず、鍾乳洞の様になっている。


「おい、大丈夫か⁉」


 倒れていたのは三十人もの兵士たち。彼らは皆、意識を失っている。


「……やはり貴様らか」


 ブリックスは空間の中央に、双子とルピスを捉えた。


「誤解だよ。その()()()兵士たちが、ここで私たちを待ち伏せしてたのさ。襲われたから返り討ちにしてやっただけだよ」


 バスチーは、ルピスの宝箱を下敷きにして座り、足を組んで優雅に煽った。宝箱を背負ったままのルピスは、尻餅をついて足をバタバタとさせている。


「ブリックス団長! 退路が何かに塞がれています!」


 慌てる兵士たちにはそれが何か分からない。この空間唯一の出入り口は、いつの間にか無数の魔導書が敷き詰められ封鎖されている。これにより、冒険者たちと兵士団は完全に分断された。


「どこまで知っている……?」

「説明する意味があるのか?」


 ブリックスの問いを、バスチーは鼻で笑い飛ばした。

 兵士団の……いや、王国の目論見は既に看破されている。これは迷宮(ダンジョン)の探索などではない。冒険者という名の餌を誘い込むための依頼(クエスト)だ。


「このガキが背負った魔器亜(マギア)に、生きた人の血肉を与える……それがアンタらの目的だろ?」

「結局、説明するんだな」

「うるさい、馬鹿!」

「……悪口はよせ」


 腕を組んで堂々としていたバットは、シュンとして膝を抱えて座り込んだ。


魔器亜(マギア)の要求を拒めば、()()()でも制御できなくなる。アンタらはこの魔器亜(マギア)を兵器として使い続けるために、無能な冒険者を集めて餌にしてるってわけか」

「そこまで気付いているのなら……何故逃げなかった?」

「あ? 見てわかんねーのか? アンタらは五人。そこに倒れてるお仲間は何人だ?」

「ふん……自惚れるな馬鹿が。我々をここに閉じ込めたのは失策だったな」


 ブリックスが嗤うと、それに混じってすすり泣く様な声が空間を満たす。その正体は、地面や壁、天井から湧き出てきた魔霊(ゴースト)たちだった。


「ここで魔器亜(マギア)に飲み込まれた冒険者たちの亡霊だ! 魔霊(ゴースト)に触れれば精気を奪われ、いずれ死に至る! 死にたくなければ、退路を開け!」


 過去に幾人もの冒険者たちが犠牲に成ったのだろう。未練を持った魂たちは成仏されず、過行く時間と共に魔物へと変貌した。何を恨んでいたのかも忘れて、魔霊(ゴースト)たちは空間を飛行し続け、見境なく人を喰らう……はずなのだが、双子は退屈そうに欠伸をしながら微動だにしない。


「……何故魔霊(ゴースト)が近づかない⁉ まさか、貴様らも洗礼を受けているのか……いや、魔霊(ゴースト)の存在を予測できたはずがないっ!」


 事前に教会で洗礼を受ければ、少なくとも丸一日は魔霊(ゴースト)から身を守ることができる。ブリックスたち兵士団も、当然洗礼を受けている。しかしそれは、事前に魔霊(ゴースト)が出現することを知っているからである。


「俺は不死者(イモータル)だからな。幽霊は近づかない」


 説明しよう。不死者(イモータル)は死の概念から逸脱した存在である。故に、生者をあの世へ連れて行くことを本能とする魔霊(ゴースト)は、興味を示さないのだ。バットは不完全な不死者(イモータル)であるが、その根源的な性質は変わらない。


「私はありがた~い聖書を持ってるから安全だ」


 説明しよう。バスチーが取り出したそれは、決して聖書などではない。正確には、魔霊(ゴースト)をあの世に送り返す黒魔術が記された魔導書である。禍々しい人皮装丁本(にんぴそうていほん)は、その見た目だけで魔霊(ゴースト)たちが危険を察して退く程であった。


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