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冒険者とは、世界を旅する全ての者の総称である。国を繋ぐ隊商も、夢を追う探検家も、流浪の盗賊ですらそう呼ばれる。元々は資格など必要とせず、ただ一歩を踏み出すだけで誰もが冒険者であった。
しかしそれは、二百年前までの話。
現在では世界各地に様々な冒険者ギルドが乱立し、雇われの身となった冒険者たちに自由はない。だが利点もあった。冒険者の資格は身分証明にもなり、ギルドの後ろ盾により他国への入国が容易になる。それによって保険制度が確立され、冒険資金の貸借も盛んに行われる様になった。
そして今、新たに二人の冒険者が生まれようとしている。
「ようこそ、“旅人の集い”へ!」
満面の笑顔を浮かべ、冒険者ギルドの受付嬢が双子を迎い入れた。
双子は長く住んだ町を出て、王都へと足を運んだ。訪れた“旅人の集い”は、古風な外観でありながら小綺麗で重厚感のある巨大な建物。中には酒場や雑貨屋が併設されており、喧騒で満ちていた。目的は冒険者の資格を取得すること。それは性別、年齢、種族を問わず誰でも取得可能。双子にとっての問題は、ランクの認定にあった。
「で? なんで私がF級冒険者なんだ?」
「ええっと……魔導師であることのご証明ができないとのことですので……。特別な資格や実績がない方はF級登録となるんです……」
理不尽な言い掛かりで迫るバスチーに、怯みながらも笑顔を崩さず受付嬢は応対した。
「私は、あの“魔導の全”から免許皆伝を受けてるんだ。どう考えてもS級だろ!」
「と、仰られましても……。“魔導の全”という方も存じ上げませんし……」
「……あの師匠、全然有名じゃないのか……」
息巻いていたバスチーは、途端に落ち着きを取り戻した。どうやら頼りにしていた当てが外れた様だ。
「ゴホンっ。じゃあ、今度は俺がF級な理由を教えてもらおうかな」
後ろでやり取りを聞いていたバットが割り込んだ。申請書に記載した職は『不死者』。受付嬢はその文字列とバットの顔を交互に見て、ただただ苦笑するばかりであった。
「不死者は職じゃねーだろ! この無職のロクデナシが!」
「悪口はよせ。それに俺は無職じゃない。裁縫師だ」
「だったら、そう書け!」
バスチーは遠慮なくバットの臀部を蹴り上げながら捲し立てた。結局、双子はいずれもF級冒険者として登録されることを受け入れた。
「F級冒険者が受けられる一番難易度の高い依頼を斡旋してくれ」
自分たちが経営する店を捨てた双子の食い扶持は、冒険者としての仕事だけ。故にバスチーは最も報酬の高い高難易度の依頼を所望した。それに、腕に自信のある双子は様子見など必要としない。たとえS級に相当する依頼であってもやり遂げる気概である。
「実は丁度良い物があるんです! 王国からの依頼なので安心安全! 派遣された兵士の方々と共に、山岳の迷宮を探索するだけなんです!」
受付嬢は興奮を隠しきれずに上半身をカウンターから乗り出して勧める。そのくせ、やけに声量を抑えて囁く様に言葉にした。
国が自国の土地に点在する迷宮を、冒険者の力を借りて調査することは珍しくない。見つかった宝の類は全て国益となるが、報酬自体が高額である。F級冒険者でも受けられるとなれば、破格の報酬だ。
「たまたま欠員が出たんです! 引く手あまたなので、チャンスは今しかありませんよ!」
受付嬢は間髪入れずに言葉を続けた。さほど良い案件なのだろう。
「いいね! それで行こう」
バスチーは即決した。当然、バットの意見など聞く素振りも見せない。
双子は依頼書に承諾の署名をして、場所と時間を確認して“旅人の集い”の本拠を後にした。
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