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不完全な双子と完璧な世界  作者: 白色一色
Chapter.2 悪い双子と噂の兄妹
19/44

2-10

「がはっ! ごはっ……」


 船上に引き上げられ、大の字に寝かされたディーガが空気混じりの水を吐き出した。魔力切れにより、その体は元のサイズに戻っている。


「兄貴! よかったああああ!」

「オレは、生きているのか?」


 グリアは額を甲冑に強くぶつけながら兄を抱きしめた。彼の甲冑には、濡れた紙が何枚か貼り付いている。


「私の魔導書は泳ぐのが苦手なんだ。次は落ちるなよ」


 バスチーの魔導書が、海に沈んだディーガを汲み上げて救ったのだ。そんな理屈を彼は知らない。だが、眼前の魔導師(ロード・ウィザード)が命の恩人であることは理解できた。

 妹の背を擦って落ち着かせると、ディーガは立ち上がってバスチーの手を両手で握った。


「ありがとう! 人を助けることはあっても、まさか助けられることになるとは」

「やめろ、気安く触るな」

「恩を着せず、歯牙にもかけないその態度……気高く、美しい……」


 罵倒しながら、握られた手を振り払う。しかし、ディーガはその強気な様子が気に入ってしまった様だ。


「うえ……ちょっとキモいぞ……」

「なんかごめん……」


 寒気に肩を震わせるバスチーへ、グリアは眉を八の字にして謝罪した。


「で、アンタらは何なんだ? 【縮小化(コンプレス)】も【巨大化(ギガント)】も、普通は生物に施せない魔術だろ」


 すっかり大人しくなったアラナス兄妹に、バスチーは不躾に質問する。


「オレたちは異母兄妹なんだ。オレは間人(ヒューパ)巨人(スプリガン)のハーフ。妹のグリアは間人(ヒューパ)蝶人(ピクシー)のハーフだ」


 それだけ聞いて、バスチーは納得した。巨人(スプリガン)は巨人化の性質、そして蝶人(ピクシー)は小人化の性質を持つ。ハーフの二人は、魔術を利用してその性質を強引に呼び覚ましていたのだ。


「ハッ! そう言えば、紳士服の彼は⁉」


 突然、ディーガは目を見開いて首を左右に振った。突き落としたバットのことを思い出した様だ。


「あぁ、あいつのことは気にしなくても……あれ? ルピスはどこ行った?」


 同じくバスチーも、首を振って辺りを見回す。


「い、いてててて……」


 誰に気付かれるでもなく、船倉へ下る階段の中腹で、ダラスが腰を抑えながら痛みに悶絶していた。宝箱にしがみ付くダラスを突き飛ばす様に引き剥がして、ルピスは海へ飛び出したのだ。重い宝箱も、海の上では浮力となる。しかし、背負い方の問題で顔を水面に出すことができずにバチャバチャともがいていた。


「大丈夫か? 危ないじゃないか。海には落ちないように注意しないと」


 あと一歩で意識を失うのではないかという時、バットが宝箱を引っ張って彼女の姿勢を正した。


「ぷはぁっ! はぁはぁ、バット! 助けに来たよ!」


 泣きそうでありながら、健気な笑顔を見せるルピスはそう言った。彼女にバットを救うための明確な案はなかった。せめて水に浮かぶ宝箱が、バットにとっての取り付く島になればと考え、自然と海に飛び込んでいたのだ。


「そうか、俺を助けに来てくれたのか。ありがとう。よしよし」

「ちょ、うぷわっ、やめてよバット」


 普段バスチーにぞんざいに扱われているバットは、嬉しくなってルピスの頭を撫でまわした。その所為で、彼女は何度か海水を飲み込む羽目になる。だが、理由はそれだけではなかった。


「ぷひゃっ、何だか波が立ってきてない?」

「む、確かに」


 二人が水面ではしゃいだことが原因ではない。間違いなく、海が揺れている。途端、ゴロゴロと空が鳴り、刺すような雨が音を支配する。波は更に高く、風は飛沫を上げる。


「不味いな。ルピス、頭から落ちないように気を付けろ」

「え? 何? どういう意味?」


 動物が唸るような声を上げ、バットはルピスの宝箱を掴んで真上に投げた。それは軽々と船の高さを超えて弧を描く。ドガン、と音を立ててルピスは宝箱から甲板に落下した。腰を反らせて「うぐぐ」と声にならない声を吐きだす。


「ルピス、心配したぞ。何やってたんだ?」

「バ、バットが……海に……」

「なんだそんなことか。あいつは大丈夫だ。ほっとけほっとけ」


 相変わらず、バスチーはバットを心配しようとしない。しかしそんな態度が、逆にルピスの不安を払拭した。


「バスチーがそう言うなら……きっと大丈夫だね……」


 ルピスは体をダランとさせたまま、乾いた笑いを漏らした。


「うお、うおおお、風が戻ってきやがった! 行くぞ、お前たち! 船内に戻れ!」


 よろよろと甲板に姿を現したダラスは、響く痛みに耐えながら精一杯叫んだ。彼は引き返す気などなく、当然“冥界海域”を攻略するつもりでいる。


「そうこなくちゃね」


 バスチーは、迫る危機に喜々として向かう。


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