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不完全な双子と完璧な世界  作者: 白色一色
Chapter.2 悪い双子と噂の兄妹
16/44

2-7

 “冥界海域”へ入るまでもなく、荒波は船を激しく揺らし、冒険者たちはそこら中を転げまわった。そんな中、双子はルピスの宝箱にしがみ付いてドッシリと構えている。


「蟹を見た所為で腹が減って来たな。干し肉でも食うか」


 突如としてバスチーがルピスの宝箱を開ける。忘れてはいけない……それはただの箱にあらず。全てを飲み込む魔器亜(マギア)なのだ。


「おい、何やってうおぁぁぁ」


 焦ったバットは宝箱から手を放し、そのまま揺れに攫われ船内の奥へ転がって行った。


魔器亜(マギア)は暴走するか、契約者の意思でしか起動しないんだよ。つまり普段はただの宝箱だ。入ってるのは日用品と食料だけどね」


 バスチーは薄く切った干し肉を何枚か取り出して、頬張りながら説明した。しかし、それを聞く者はもういない。


「ほら、ルピスも食っとけ。育ち盛りなんだから」

「うぅ……ボクは、うっ、大丈夫。お腹減ってないから……」

「船酔いか? 柔弱だなぁ」


 今にも吐き出しそうな気分に襲われるルピスは、込み上げていた物がスッと引く感覚を覚えた。


「あれ? 揺れが収まってる?」


 ルピスは直ぐに気力を取り戻したが、他の冒険者たちは既に満身創痍。ほとんどの者は立ち上がることすらできない。

 状況を確認するため、バスチーは甲板へ出た。


「よぉ、元気そうだな」


 船長のダラスが声を掛けた。舵輪を握っているはずの彼は、何故か甲板で呑気にパイプ煙草を吸っている。


「何があった? 波が静かだ。風もない」

「俺にも分からねぇ。言えるのは、“冥界海域”へ入ったってことだけだ」


 当然、ダラスもここへ来るのは初めてだ。どんな危険が待っているかは分からない。しかし、むしろ危険は去ったかのように思える。これが帆船でなければ……。


「無風の海なんてありえねぇ……。見ろよ、まるで海が湖みてぇじゃねぇか」


 冷静な様に見えて、ダラスは焦っていた。彼の積み重ねてきた経験による技術や勘が、全く通用しない状況に見舞われているのだ。


「面白いじゃないか。誰も帰って来れない理由がこういうことだとはね」


 ネレウス号に(かい)はない。それは戦艦の様な他二隻も同じである。


「そういや、他の船が見えないな」

「“冥界海域”に入るまでは目の前にいたさ。ネレウス号と同じ帆船がこの海を進めるとは思えねぇ。沈んじまったのかもな」

「波もないのに?」

「船を襲うのは波だけじゃねぇさ」


 成す術なく、二人は空を見上げる。そこに、バットとルピスがやって来た。


「何があった? 波が静かだ。風もない」

「その流れもうやったからしゃべるな間抜け」

「おい、悪口はよせ」


 バスチーは息継ぎもせずに辛辣な言葉を浴びせる。それを咎めるのはバットだけではなかった。


「彼の言う通り。人をあまり悪く言うものじゃない」


 甲冑をガシャリと鳴らして、ディーガが満を持して姿を現した。それと同時にグリアも顔を見せる。


「ははーん、聞いたままの見た目だな。アンタらがアラナス兄妹か」

「君がオレたちの偽物だな」


 バスチーとディーガは互いの正体を察した。


「出航に間に合うなんて、やるじゃないか。で、どうしたいんだ?」

「もちろん、罰を与える」

「上等だ……!」


 ただならぬ気迫から、戦いの火蓋が切られることを悟ったダラスは、ヘコヘコと身を屈めルピスを抱え、船倉へ下る階段に身を隠した。


「な、何するの⁉」

「暴れるんじゃない! ここなら安全だ」


 子供を守るのが大人の務め。ダラスはその責務を全うしようとした。


「アイツ魔術師(ウィザート)でしょ? アタシがやるよ」


 グリアが目を付けたのはバスチーだった。


「残念。私は魔導師(ロード・ウィザード)様だ」

「嘘つけ」


 バスチーは会話と同時に自然な形で立ち位置を変え、甲板の最も広い中央部を陣取った。その動きに答える様に、バットはすれ違って船首の方へ歩みを進める。


「目を見ればわかる。お前、強いな」


 武器も防具もないバットに対して、ディーガはそう所見を述べた。


「オレは武器も使うし、甲冑を脱ぐつもりもない。守護士(ガーディアン)として、己の尊厳を守る必要があるからだ。オレを騙った罪は重いぞ」

「あぁ、気にしなくていい。俺も気にしない」


 横並びでゆっくりと歩く二人は、船首に差し掛かった所で向かい合った。


「【巨大化(ギガント)】」


 ディーガは胸元の甲冑からネックレスを取り出し、それに魔術を施した。先の小さな装飾は、途端に巨大化して一本の剣と成る。その剣身は二メートル、剣幅は一メートルにも及ぶ。剣と呼ぶにはあまりにも不格好。まるで盾の様にすら見える。しかし、どんな物でも一刀両断するであろうと信じさせるだけの威風があった。


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