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不完全な双子と完璧な世界  作者: 白色一色
Chapter.2 悪い双子と噂の兄妹
15/44

2-6

 一方、本物のアラナス兄妹は……。

 

「はぁ、はぁ……まだだよね⁉ 船!」


 息を切らしながら、グリアが名簿を持った兵士に詰め寄る。


「あ、あぁ。ギリギリセーフだ。後十分で出航する」

「はぁ……良かったあぁぁ」


 大きく息を吐き出しながらグリアは膝を付いた。その後ろで、大量の魔力を消費してゲッソリとした表情のディーガが口を開く。


「オレはディーガ・アラナス。そして妹のグリアだ」

「ん……? 二人とも既に入船済みだぞ?」

「は? そんなわけないじゃん!」


 まだ僅かに息の荒いグリアは、兵士の胸倉を掴んだ。だが、ディーガは冷静に対処する。


「なるほど、オレたちに成り代わるための足止めだったか……。これがギルド発行の本人証明書だ」


 甲冑の隙間から、手の平サイズの羊皮紙をスルリと取り出して兵士に突き出す。グリアもそれに続いた。


「アンタたちが本人だってのは分かったが……もう時間もないしな……」

「オレたちの雇い主はリリスタン公爵だ。面倒事は、君も望むところではないだろう?」


 そう凄まれて、兵士は急ぎ名簿をめくって人員を調整できるか確認した。


「……分かった。一番船に――」

「オレたちを騙った奴らの船はどれだ?」


 ディーガはふらつきながらも、兵士の肩を握って力を入れる。


「さ、三番船だ!」

「分かった。ありがとう」


 肩どころか全身に鋭い痛みを感じた兵士は、直ぐに白状した。船の上でいざこざが起これば、兵士はその責を負わされるかもしれない。それでもディーガに逆らうだけの胆力はなかった。

 三番船の埠頭に辿り着いた兄妹は、ネレウス号から垂らされた縄梯子を無視して船尾部分から静かに乗り込んだ。指や足をかけるだけの凹みや隙間が多く、スルスルと簡単に登りきる。


「何でアタシたちがコソコソしないといけないの!」

「静かにしろ。今、騒ぎを起こしたら、オレたち諸共下船させられるかもしれない。事を起こすなら出航した後だ」


 ディーガはガチャガチャと甲冑を鳴らしながら、壁に開いた小さな穴から船内を覗いた。


「めっちゃバレそう」


 グリアは面倒くさそうに呟いて、その場にへたり込んで空を仰いだ。

 船内の人は十人にも満たない。船を管理し舵を取るのは船長一人。その他は全て冒険者たちだ。他の船にはイルシュ王国が派遣した兵士たちも乗り込むが、ネレウス号には一人もいない。まるで最初から見捨てられているかの様だ。

 ディーガは、ギラついた目をした冒険者たちを一人一人観察する。その中で、明らかに余裕を持った者が二人いることに気が付いた。


「なぁ、何でさっきから私をそんな風に見るんだよ」


 バスチーの向いに座ったルピスは、彼女の目をジッと見つめて何かを訴えようとしている。そんな状態に嫌気がさしたバスチーは、立ち上がってルピスの隣に座り直した。


「ルピスのことを小間使いって言ったのを怒ってるのか? もちろん嘘だ。賢いルピスなら分かるだろ?」


 珍しく優しい口調で話すバスチーは、ルピスが背負ったままの宝箱に手を乗せて体を寄せた。それでもブスっとしたままのルピスを見て、遠慮せずに想いを話し始める。


「私は使えない奴をとことん見下してる。でもルピスは違う。魔器亜(マギア)の契約者が使えないわけないからな。私はルピスを利用して、ルピスは私を利用する……これが信頼関係ってやつさ」

「な、なんか違う気がするけど……」


 バスチーは忖度しない。それが心の距離を感じさせる要因となっていた。


「言い方は最悪だが、バスチーが『信頼』なんて言葉を使うのは珍しい。俺もルピスのことは信頼しているよ」


 隣で会話を聞いていたバットがフォローする。


「うん……ありがとう」


 ルピスは上がった口角を見られるのが照れ臭くて、顔を伏せながら感謝を伝えた。


「子供連れか。浮かない顔をしている……もしかすると、誘拐されて小間使いにでもされているのかもしれない」


 その様子を観察していたディーガは、あらぬ勘違いをすることになった。壁越しでは声までは聞こえない。


「出航おおおおおおお‼」


 その時、ダラスが鐘を何度も鳴らして帆を張った。


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