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不完全な双子と完璧な世界  作者: 白色一色
Chapter.2 悪い双子と噂の兄妹
13/44

2-4

 商人の馬車に乗り込んで二度目の朝日が昇る頃、双子たちは国境を越えてイルシュ王国領へ足を踏み入れた。その日の夕刻には港町バーラの門をくぐる。


「楽しかったぜ、アンタらとの旅は!」

「あぁ、悪くなかった」


 周囲が目をやるほど大きな声で商人は手を振る。バスチーは素っ気なく返事をして、一枚の金貨を投げた。


「お、こいつはなんだ?」

「情報料さ。色々聞けて助かったよ」


 そう言い残して、振り返らずにバスチーは歩き始める。バットは商人と握手を交わし、ルピスと共に一言礼をして別れを告げた。


「随分早く着いたな。金はあるし、良い宿をとろう。風呂に浸かってぐっすり眠りたい」


 バットは軽く背伸びをしながら提案し、ルピスの顔を見た。彼女も首をぶんぶん縦に振りながら同調する。


「その通り、私たちには時間と金がある」


 ピタリと足を止め、バスチーは意味深に振り返る。


「貰うぞ。アラナス兄妹の立場」


 “冥界海域”へ向かう船が出るのは五日後。それまでにアラナス兄妹がこの港町に辿り着けなければ、双子がアラナス兄妹の名を騙り、船に乗る算段だ。どの国のどの町にも無頼漢(アウトロー)は存在する。金に物を言わせれば、彼らにアラナス兄妹の進行を邪魔させることも可能だろう。


「まずは探偵(スルース)を雇って兄妹を探させよう。無頼漢(アウトロー)共に馬車の車輪を破壊させれば、船の出航には間に合わないだろ」

「既にこの町にいるか、直ぐそこまで迫っている可能性はないのか?」

「もしそうなら別の案で行くさ。私のここに任せとけ」


 バスチーは人差し指でこめかみを突いて不敵に笑った――。



 三日後。

 西の高原を一台の辻馬車が走る。真っすぐ港町を目指すその馬車には、(くだん)のアラナス兄妹が乗っていた。


「……船に乗る前に着ればいいのに」


 妹のグリアが、呆れたように溜息をついた。


「いつ魔物が現れるかも分からないんだ。守護士(ガーディアン)として、常に甲冑を身につけておく必要がある」


 兄のディーガが、険しい表情で諭す。


「ガチャガチャうるさいんですけど」


 しかしグリアは不満の様だ。ディーガは頻繁に足を組み替え、お尻を上げて姿勢を変える。その度に甲冑がぶつかり合う音が耳に刺さる。長時間座っていなければならない状況下において、ディーガの身なりは相応しくなかった。

 そんな平穏なやり取りが続く中、突然に馬車が傾き地面を滑る。


「なになになに⁉ ちゃんと運転してよ!」

「……盗賊(テイカー)の類か」


 馬車の車輪は破壊され、周囲には布で鼻より下を隠した者たちが弓を引いて鏃を兄妹に向けている。


「十八人か。アタシなら一秒」

「オレなら五分だ」

「じゃ、アタシが――」

「ダメだ、お前は殺すことが前提だろう。それに、外にいる御者を守りながら戦わなければならない。オレに任せておけ」


 ディーガはグリアを制止した。その直後、横倒れになって上を向いた扉を蹴り飛ばし、素早く馬車の上に飛び出して御者の状況を確認する。飛んでくるであろう矢を全て弾くために、五感を研ぎ澄ませて身を構えた。


「もう逃げられちゃったよ。やっぱ守りより攻めだって」


 馬車からピョコリと顔を出したグリアが現状を告げる。やり場を失ったディーガは顔を赤らめながら、大げさにゴホンと咳をして馬車の上から飛び降りた。


「もう大丈夫です。お怪我は有りませんか?」

「え、えぇ。少し腕を擦りむいた程度です。奴ら……何がしたかったんでしょうかね? 攻撃するだけして、何も取らずに逃げて行くなんて」


 幸い、御者は無事だった。しかし、盗賊(テイカー)たちの行動には疑問が残る。

 

「恐らくは、オレたちが目的地に辿り着くことを、阻止したい者の仕業でしょう」


 ディーガは見抜いた。事実、先の盗賊(テイカー)はアラナス兄妹の足止めをするべく、バスチーが雇った者たちだ。


「あーあ、これじゃあ間に合わないね」


 そう言ってグリアは簡単に諦めたが、ディーガは方法を探る。


「馬を貸していただけませんか? オレたちの荷物は全て捨てていきます。三人なら乗れないことも――」

「それが、脚を傷つけられたみたいでして。人を乗せて走り続けるのは無理そうです」


 馬の命に別状はない。しかし、右の後ろ脚から僅かな出血を確認できた。放たれた矢がかすったのだろう。大事ではないが、安静にしておく必要がある。


「オレの()()なら……ギリギリ間に合うか……?」

「ちょっと、何考えてんの? 魔力消費エグいんだから止めときなよ」

「しかし、それしか方法はない。大丈夫。間に合いさえすれば、船に揺られている間に回復するさ」


 ディーガには、自力で問題を解決する術があった――。


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