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不完全な双子と完璧な世界  作者: 白色一色
Chapter.2 悪い双子と噂の兄妹
12/44

2-3

「何が起きてるんだ……?」


 商人たちは武器を垂らし、天を仰いで呟いた。


「やぁやぁ、皆さん。商売日和ですね」


 バスチーが商人の元へ辿り着いて声を掛ける。そして一度だけ指を鳴らした。すると魔導書たちは方々に散り、目を回した魔物たちが遥か上空から落下する。


「危ねぇ! 避けろ!」


 商人の一人がそれを見て大声を上げた。馬車の下に潜り込む者、腰を低くして上空を見上げたまま避けようとする者、ひたすら遠くに走り去る者……様々だ。

 バスチーが計算した通り、それらは馬車から外れた位置に落下する。地面に叩きつけられた魔物は、見るも無残な姿となって息絶えた。


「あ、アンタら一体何者――」

「お礼は?」


 バスチーは商人の言葉を遮って満面の笑顔を見せつける。何故か皆、それを恐ろしいと感じた。


「悪いが商品も金も渡せねぇ。だが、それ以外ならできる限り協力させてもらうぜ」

「私たちを国境まで連れて行ってくれないか? できればイルシュ王国のバーラという港町へ行きたいんだけど」

「丁度、俺たちもイルシュへ向かうところさ。バーラに寄るつもりは無かったが……いいぜ! 俺の馬車でなら連れてってやるよ!」


 商人の一人が都合をつけ、双子たちは目的地まで馬車で向かうことができるようになった。


「こりゃ……何がどうなってんだぁ?」


 他の商人たちは魔物の死体を眺めて困惑する。本が空を飛ぶ光景など、見たことがあるはずもない。だからこそ、目撃したことと起こったことの整合性が取れないでいるのだ。だが、説明している暇は双子にも商人たちにもない。「さっさと行くぞ!」という声と共に、呆けていた商人たちは顔つきを変えて、それぞれ御者台に乗り込んで馬車を走らせた――。



 荷台に乗り込んだ双子たちは、幌越しの日光に眠気を覚えながら揺られる。


「そうか、アンタらも“人喰いの海”へ向かう冒険者ってわけか」

「あぁ、そうだ」


 商人は手綱を振りながら、頻繁に双子に話しかける。バスチーは既に帽子を顔に被せて寝ているため、仕方なくバットが応対した。


「まさか、そのお嬢ちゃんもか?」

「う、うん。ボクも一緒」


 まだ幼いルピスが危険な場所へ赴くと聞いて、商人は少し訝し気な表情でバットを一瞥した。


「兄妹ってわけじゃ……ないのかい?」

「俺とこっちは双子だ。ルピスは違うが、大事な仲間だ。危険があれば俺が守る」


 顔の広い商人なら、双子がお尋ね者だと気付くかもしれない。嘘をつくのが苦手なバットは、真実でありながらも怪しまれない様に言葉を選ぶ。


「男女の双子か。そういや、アラナス兄妹も今回の船に乗るって聞いたな。話に聞いた見た目と違うが……もしかしてアンタらのことか?」


 商人はルピスよりも、双子ということの方が気になった様だ。


「いや、私たちはバグズだ。聞かせてもらえないかな? アラナス兄妹って奴らのこと」


 バスチーは帽子を上げて顔を見せた。寝ていた様に見えて、しっかりと話を聞いていたのだ。バットは「起きてたのか」と呟いて安堵した表情を浮かべる。


「アラナス兄妹は有名なA級冒険者さ。S級の実力はあるらしいが、仕事を自分たちで取って来るから、ギルドが斡旋した依頼(クエスト)をこなさずランクが上がらないって噂だ」


 曰く、兄は盾を持たない守護士(ガーディアン)、妹は剣を持たない戦士(ウォリアー)だと言う。たった二人で氷結の竜(クライオ・ドラゴン)を討伐した実績を持ち、二つの国から英雄の称号を授与された優秀な冒険者である。

 バスチーは、噂程度の取るに足らない情報も含め、商人の知り得るアラナス兄妹のあれやこれやを全て聞き出した。


「その兄妹に雇ってもらうのか?」


 バットには、それほどまでに兄妹のことを知りたがる理由が分からなかった。


「それもいいかもね」


 そうやって適当にあしらってから、バスチーは再び帽子を顔に被せて眠りについた。


「で、本当にそのお嬢ちゃんも連れて行くつもりなのかい?」

「……検討中です」


 商人の口は止まらない。ただの世間話ならまだしも、再び話の主軸がルピスになってしまった。バットは無表情で困り果てながら、差し障りの無い言葉を紡ぎ続けた。


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