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1-6

 戦争から帰ってきたローズはベッドにうつ伏せに倒れ、左頬を枕に置いていた。

 何故かいつもより疲れが溜まっている気がした。

 毛布を被って気持ち良はそうにしているが、手元にはしっかり双剣を置いている。

「……やっぱ、お前強ぇんだな」

 枕元に寝転がるネーロが話しかけてきた。

 お互い自然と目が合う。

「見てたの?私が戦ってるところ」

「ずっと見てたぜ遠くから。お前が屈強な敵兵共を次々とぶった斬ってくところは爽快だったぜ」

「そう……」

「つーか思ったんだけどよぉ。お前、魔法は使わねぇのか?」

 ネーロが首を傾げ、不思議そうに訊いてきた。

「他のガキ共は火やら氷やら出して無双してたが、お前は跳んで走って斬っての繰り返しだったぜ。まぁ、それでも常人離れしてるけどよぉ」

「使わないんじゃなくて、使えないんだ」

「使えない?」

「私には魔力が無いから。全く」

 ローズは淡々と答えてみせた。

 こういう説明は、初めてのことではない。

 これまで多くの者達に、同じように答えてきた。

 幼い頃は相手からの憐れみや嘲笑が多かった。

 けれど成長するにつれ、驚かれることの方が多くなっていった。

 しかしネーロは、これまた不思議そうだった。

「魔力が無い奴はすげぇレアだが、お前もそうなのか。その強さは最初からか?」

「ううん」

 ローズに抑揚無く否定される。

「違うか。……ちなみに、お前は物心付いた時からこの国に居たのか?」

「うん」

 今度は肯定だ。

「ふ〜ん……。どうやってここまで強くなった?」

「先生に、教えてもらった……」

 ローズはゴロンと仰向けになった。

 ボーっとしたような目で、暗い天井を見つめる。

「ヒタキ先生は……私より背が高くて、凄く速くて、強くて、格好良くて、優しくて……。私が間違えたらちゃんと正してくれたし、私が成功したら、いつも頭を撫でて褒めてくれた……」

 ローズは噛みしめるように、先生のことを語る。

 ヒタキ先生。

 それがローズの恩師の名前だ。

「ほぉ〜?……ちなみにそのヒタキ先生は今どうしてるんだ?」

「解らない」

 ローズはゴロンと横になって言った。

 ネーロに背中を向ける姿勢になっている。

「……。解らねぇのか」

「…2年前に、急に居なくなっちゃった」

「最後に何か言ってたか?」

「……特に何も。あの時、いつもみたいに、「おやすみ。良い夢見るんだよ」って言ってくれたけど、その次の日にはもう……」

「城の奴らは知らねぇのか?」

「みんな知らないって」

「別れの言葉も無しに、寝る前の挨拶だけ……か」

「……何も残してくれなかったわけじゃないよ」

「何か残ってたのか?」

「あれ」

 ローズは横になったまま、机を指差した。

 木で出来た机の上に、茶色い手帳が置いてある。

 暗いせいで黒色にも見えるそれには、傷や汚れが目立つ。

「よくあそこに置いてるよな。何なんだあれ?」

「訓練のメニュー」

「メニュー?」

「うん。先生が居なくなった日に、机に置いてあったんだ」

「へぇ。あれにはお前のことばっか書かれてるわけだ」

「うん。昔やった訓練から、これから役に立ちそうな訓練まで……。いっぱい」

 手帳には訓練の他にも、心構え等も書かれていた。

 ローズのことを見捨てたわけではない。

 自分が傍に居られなくなっても、ちゃんと進むべき道を残してくれていた。

「そうか。……なぁローズ」

「なに?」

「ヒタキ先生は、もうこの国に居ねぇかもしれないぜ」

「……そうだね」

「生死すら不明だろ?」

「うん……」

「だからこそ、旅に出るんだよ」

「うん……えっ?」

 ローズは視線を反対側に向ける。

 ニヤリといたずらっぽく笑うネーロの姿が目に映った。

 ネーロはそのまま続ける。

「世界に一歩踏み出しゃ、解らねぇことも全部解るようになるぜ。俺と一緒に来いよ。いろいろ教えてやるから」

「…そこまで聞いてると………」

 ローズは再びネーロに向き直った。

「ネーロは、私に旅を勧めたいというより、連れ出したいんじゃないかって思える」

「ンだよ。勉強苦手な癖に鋭いじゃねぇか」

 ネーロは呆れたように、目を細めた。

「どうして私を連れて行きたいの?」

「……まぁ、あれだ。一人旅に飽きちまったんだよ。ただ歩いてるだけで会話する相手もいねぇし、つまんねぇから誰か連れ出そうってな。お前なら腕が立つし良いと思ったんだ」

「そう……」

「それよりお前だお前。旅に出る気はあんのか?」

 ローズはなんとなく、急かされているような気分になった。

 ランプフラワーを見せてもらってから、旅に出たいとは思うようになっていた。

 ヒタキ先生について知ることができるとすれば尚更だ。

 もしローズが普通の家の生れだったら、即刻ネーロに付いていっているだろう。

 けれど現状を考えれば、そう簡単な話ではない。

「……旅には、興味あるよ。いろんな物を見たい。ヒタキ先生の行方を追いたい。……でも無理だよ。私はソルブレアの兵士だから。”王の槍“だから」

「立場に囚われてるってわけか。……ちなみに、お前の足の速さだったら簡単に脱走とかできそうだが、どうなんだ?」

「いつまでもあの速さで走れるわけじゃないよ……。ソルブレアは裏切りを許さない国だから、きっと追手が来る。“王の槍”のみんなが、私を殺しに来ると思う」

「なるほど。そうなりゃお前でも逃げ切れそうにねぇな」

 ネーロはふわぁと欠伸をすると、ローズを飛び越えてベッドから降りた。

 ローズはネーロの姿を追う。

「どこ行くの?」

「小腹が空いた。ネズミでも捕ってくるわ」

「そう……。ねぇ、ネーロ」

「何だ?」

「私、いつか旅に出られるかな?」

「……お前の場合難しそうだな。まぁ、いつかはチャンスが来るだろ」

「……そっか」

 ローズは小さく呟くと、目を閉じる。

 ネーロは空いた窓から出ていった。

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