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1-3

 ”カンコン“と木と木が撃ち合う音が響く。

 雲一つない空の下、城内の訓練場。

 そこでは兵士達が訓練に励んでいた。

 今は各々木剣と盾を持ち、2人1組で模擬戦を行っている。

 兵士の大半が筋骨隆々の男達なのだが、その中に1人、幼い少女が混ざっていた。

 歳は7つ程。

 動きやすい服を身に着け、盾は持たず、両手に1本ずつ木剣を持っている。

 どこで負ったのか、肌が見えるところには傷が目立っていた。

 そんな明らかに場違いな少女は、赤い瞳で自身の3倍近くの体格を持つ兵士を見上げていた。

 下手すれば我が子と変わらない年齢の少女目掛けて、兵士は躊躇なく木剣を振り下ろした。

 少女は跳び退き、間一髪でその一撃を躱す。

 木剣はそのまま地面に激突し、ひびを作った。

 兵士はその後も、まるで相手を撲り殺す程の勢いで攻め立てた。

 少女はただ猛攻を避け続けるのみだ。

 完璧に避けられなかった一撃が、額を掠める。

 掠めた部分が切れて血が出てきたが、少女の表情は変わらない。

 とはいえ状況は変わらず、ついには城壁まで追い詰められてしまった。

 トドメと言わんばかりに、兵士が木剣を振り上げる。

 それを待っていたと言わんばかりに、少女は城壁を蹴った。

 その勢いを利用し、素早く前進する。

 木剣が落とされるよりも前に、兵士の足元を抜けた。

 少女を追うため兵士が振り返る。

 しかしその時にはもう、少女は目の前に居た。

 少女は兵士の肩に跳びつき、反撃される前に首元を両膝で挟み、木剣の刃にあたる部分を兵士の目元に向けた。

 実戦なら今頃、視覚を奪われていることだろう。

 兵士は抵抗を止め、木剣と盾を手放した。

 それを確認した少女は、兵士の肩から降りた。

「ふむ、その調子だ。よくやった」

 息を切らす少女の元に、一人の女性が歩み寄ってきた。

 艶のある長い黒髪を一本に結んでおり、左目部分に斬り傷がある。

 少女と同じく身軽な装備をしており、腰には2本の剣を差していた。

 女性は微笑み、少女の頭を優しくて撫でた。

 無表情の少女の頬が、少し赤くなる。

「歳も力も上の相手を下せたんだ。もう誰かに馬鹿にされたりはしないだろう」

「せんせいが、いっぱいおしえてくれたから……」

「それもあるだろうが、君の実力だ。本当に強くなった」

 言葉ではそう言いつつも、女性は少女の成長を完全に喜んではいなかった。

 笑顔にどこか切なさが混じっている。

 少女はそれを読み取った。

「せんせい、なにかかなしいこと、あった?」

「えっ?あぁ、大丈夫。大丈夫だ。君が心配することは無い」

「そう?」

「そうだ、問題ない」

 女性はそう言いつつ、屈んで少女と目線を合わせた。

「いいかい?今の君の周りは、君を虐げる奴らばかりだ。そんなことは本来あってはならないことなんだ。君はもっと、のびのびと生きるべきなんだよ。だけど君は、ここで育ってしまった。今の私にも、君を自由にする力は無い」

「………」

「だから、強くなるんだ。もっと強く。君を虐げてくる奴らを黙らせられるくらいに。君を虐げて、否定してくる奴らの好きにさせてはいけないよ。解ったかい?」

「……うん。がんばる」

「いい返事だ。偉いね」

 女性は少女の頬を優しく触れると、立ち上がった。

 それから少女に背を向け、訓練場から歩き去る。

「せんせい……?せんせい!」

 少女は女性に向かって手を伸ばした。

 女性がそのまま、どこかへ知らないところへ行ってしまう気がしたから。




「ッ……!!」

 目を覚ましたローズは、ベッドから飛び起きた。

 少し呼吸を整えた後、部屋の時計を見る。

 朝食の時間まで、まだ1時間程早い。

「ふわぁ〜……。何だよ、目ぇ覚めちまったか?……なに焦った顔してんだ?」

 傍らで丸くなっていた黒猫が、欠伸混じりに訊く。

 「見張りくらいはやる」と言いつつ、結局眠っていたようだ。

「怖い夢でも見たか?」

「んぅ……。何だろう?懐かしい時の夢だった気がする」

「お前の”懐かしい“は壮絶そうだなぁ」

「そうかも……」

 ローズはベッドから降りる。

 両手を上げて伸びをすると、双剣と衣服を抱えた。

「朝っぱらからどこ行くんだ?」

「ちょっと訓練してくる。その後に水浴び」

「そうか。真面目だねぇ」

「……猫も来る?」

「別にいいわ。俺、訓練中やることねぇだろうし、水浴びも嫌いだからな。そもそもこの城の連中に見つかったら何されるか解らねぇ」

「そっか」

「それよりよぉ、俺の名前、考えといてくれよ?これから先ずっと“猫”って呼んでいくつもりか?確かに好きに呼んで構わねぇとか名前に執着ねぇとか言ったけどよぉ……。なんつーか、味気ねぇだろうが。これでも名付けられんの楽しみなんだぜ?」

「……うん。考えとく」

 ローズは頷くとドアを開け、自室から出て行った。

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