表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/24

1-2 

 “驚き”というものを感じたのは久しぶりだった。

 最後に驚いたのはいつだったか、ローズ自身覚えていない。

 その驚きの元凶である黒猫は、ローズの心境も気にすることなく話を続けた。

「この国どうなってんだ?ガキや野良犬に追い回されるし、肉屋の近く通っただけで店主に蹴られそうになるし、暇そうな衛兵に槍でどつかれそうになるしよぉ。物騒すぎんだろ。なぁお嬢ちゃん。……あぁ?何驚いてんだ?」

「なんで……喋れるの……?」

「ん〜?お前も猫は喋っちゃいけない側の人間か?」

「猫は喋らないよ」

「でも俺はこうして喋ってるぜ」

「………」

 ローズは言葉を詰まらせる。

 猫に論破される日が来るとは思ってもみなかった。

 とはいえ、この黒猫が普通でないことは確かだ。

 殺気は感じないが、ローズの手は自然と剣に触れていた。

「おいおいやめろって。賢明だけどよぉ、俺は別にお前を殺しにきたわけじゃねぇんだぜ」

「……じゃあ、何しにきたの?」

「宿泊」

「???」

 さも当然のように言う黒猫に、ローズは再び困惑する。

 どうしたものかと考えていると、ドアが叩かれた。

「ローズー!講義始まっちゃうよ!?」

「シンシア……!」

 早くもシンシアが迎えに来た。

 ローズは少し迷った後、双剣をベッドに放り投げ、机に置いていた教材を手に取る。

 それから急いで部屋から出て行った。

「慌ただしい奴だなぁ」

 黒猫はそう言うと、欠伸をしてから丸くなり、そして眠り始めた。




 時間は進み、夜。

 薄暗い廊下を、ローズはゆっくり歩いていた。

 戦闘は得意だが、勉学は苦手だ。

 ずっと椅子に座り、よく解らない政治や地理、戦術等の話を聞かされる。

 自分なりに理解しようとするのだが、どうしても頭に入ってこない。

 教本の細かい文字すらも、読む気が失せる。

 結局講義の途中で眠ってしまったローズは居残りさせられ、やっと解放された頃には暗くなっていた。

 いつもなら夕食を食べている頃だが、今は眠気の方が勝っている。

 食堂に寄ることなく、ローズは自室のドアを開けた。

「よぅ。随分お疲れみてーだな」

「……まだ居たの?」

 いつでも出て行けるように窓は開けていたが、部屋にはまだ黒猫の姿があった。

 机が硬かったせいなのか、今はベッドの上に居る。

「言ったろ?宿泊しに来たって」

「……私のところじゃなくてもいいと思う」

「城下の野蛮な住人達の家じゃ落ち着けねぇし、王族のところに行っても何されるか解らねぇ。お前が一番丁度いい。できれば斬り捨てないでほしいがな」

「……そっか」

 黒猫の言う通り静かに呟くと、ローズは教材を机に置き、ベッドに倒れ込んだ。

 黒猫は下敷きにならぬよう、慌てて飛び下りる。

「おいおい、本当にお疲れみてーだな」

「そうかもしれない」

「お前みたいな年頃の娘は普通、可愛い猫見たら目を輝かせるもんだぜ。なのにお前、何だその目。死んだ魚じゃねーか」

「死んだ魚?……私、生臭い?……そういえば水浴び、まだだった」

「目の話してんだけどなぁ」

 黒猫は呆れた声でそう言い、再びベッドに跳び乗った。

 横たわるローズの目の前に歩み寄る。

「お前、名前は?」

「……ローズ」

「ローズ……。ローズか。……そうか」

「あなたは?」

「俺か?好きに呼んでもらって構わないぜ。別に名前に執着とかはねーからよ」

「……そっか。ふわぁ………」

「眠そうだな」

「寝る」

 ローズは顔を蕩けさせ、あくびをする。

 双剣を抱き枕のように抱え、毛布を被る。

「それ、硬くねーか?」

「寝込み襲われた時に必要」

「起きれんのか?」

「いつでも起きれるから大丈夫」

「便利な体してんなぁ。ゆっくり寝ろよ。見張りくらいはしてやるからよ」

「ありがとう。……おやすみ」

 ローズはそこまで言うと、早速寝息を立て始めた。

「寝顔はその辺の少女と変わらねぇな。にしても物騒な国に来ちまったもんだ。ガキを兵士にするなんてよぉ」

 独り言を言う黒猫は傍に座る。

 そしていつまでもローズのことを見守っていた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ