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4-1

 木々が立ち並ぶ薄暗い道を、その小さな生き物は走っていた。

 ススキのような、薄黄色の体毛。

 猫に似た姿をしているが、垂れた耳が兎のように長い。

 尻尾は毛を多く纏っていて、太く見える。

 そしてその生き物の額には、紫色の丸い宝石が埋め込まれているような形で生えていた。

 額で輝く宝石とは裏腹に、その生き物は全身ボロボロだった。

 体には葉っぱや砂埃がくっつき、尻尾には木の枝が刺さっている。

 走っている途中で、その生き物は木の根に足を取られた。

 勢い余って、その生き物は顔から地面に転んでしまった。

 しかし、すぐに起き上がる。

 そしてまた、走り出すのだった。




「ローズ、こっち来てみろ」

「あっ…ちょっと……」

 山道を歩いている最中、ネーロが道を外れて駆け出した。

 ローズは慌ててその後を追う。

 ネーロはそこまで遠くに行っていなかった。

 1本の木の前で、ローズを待つように佇んでいた。

「ネーロ、急に変なところ行かないで」

「悪ぃな。それより見てみろよあれ」

 ネーロが目の前の木を見上げる。

 枝には暗い紫色の、丸くて小さな果実の房がいくつも生っていた。

「あれって……」

山葡萄やまぶどうだ。山じゃ貴重な栄養源だぜ」

「葡萄……」

 ローズ自身、葡萄は見たことある。

 貴族や王族の食卓に並んでいることが多かった。

 所謂高級品。

 食べたことはなかった。

「美味しいのかな?」

「お前は栄養より味なのな。まぁいい。何事も経験だ。食ってみろよ」

「うん。採ってみる」

 謎にニヤついているネーロを横目に、ローズはリュックを降ろす。

 それから剣を1本抜いて、跳躍。

 枝の高さまで上がったところで、剣を振り抜いた。

“ビュッ_____!!”

 見事、1房切り落としてみせた。

 着地して剣を仕舞ったローズは、山葡萄を拾い上げた。

 房から1粒もぎ取って、眺めてみる。

 紫色の皮に艶が出ていて、まるで宝石のようだった。

(本当に食べて大丈夫なのかな…?葡萄とはいえ、野生だし…。……まぁでも、ネーロが言うなら…)

 少々葛藤があったものの、最終的にローズは山葡萄を口に入れた。

 皮を潰す感覚の後に、ブチュブチュとした食感を味わう。

 何度か噛んだ後に、ローズはそれを呑み込んだ。

「どうだ〜?ローズ」

 ネーロが感想を求めてくる。

 ローズは少しだけしかめっ面になっていた。

 その理由を語るべく、口を開く。

「あんまり美味しくない……」

「おぉ、そうか」

「ちょっとだけ甘かったけど、酸っぱさと渋さが強い。ていうか…ほとんど、皮?」

 ローズは山葡萄の房をつつきながらそう言った。

 その仕草に、ネーロは笑い声を上げる。

「やっぱお前もそう思うか〜。黙っちゃいたが、それ普通はジャムとかジュースに加工して食うんだよ。そのまま食うモンじゃねェ」

「……先に言ってよ」

「悪ィ悪ィ。山葡萄初めて見た奴にはそのまま食わせてやりたくなンだよ」

「もう……」

 ローズはネーロから目を逸らすと、再び山葡萄を観察した。

「……王族の人達は、この味が好きなのかな…」

「いやいや、普通は加工して食うって言ったろ。お偉いさんが食ってんのは品種改良されたやつだ」

「ひん…しゅ…かいりょう……?」

「長い時間を掛けて、食いにくい物を人間が食いやすいように作り変えたんだよ。甘くて可食部が多い葡萄にな」

「へぇ……」

 ローズは目を丸くして山葡萄を眺める。

 この酸っぱくて渋い、可食部少なめの葡萄を、甘く美味しく…。

 まるで魔法みたいだと、ローズは思った。

 しかし魔法は関係ないことをネーロに言われ、ローズは驚かされるのだった。




 バードピア王国を出た後、ローズとネーロは山に入った。

 山の名は“ノームハット”。

 “ノーム”とは大地を司る精霊で、とんがり帽子を作って被る習性がある。

 その帽子に形が似ていることから、その名が付いた。

 ローズにとっては久々の登山。

 目標は、山頂からの綺麗な景色。

 それを目指して、途中たまに寄り道しつつ、ローズとネーロは歩いていた。

「で、どうするよそれ」

 ネーロがローズを見上げてそう言った。

 今の本題は、山葡萄の使い道。

 1粒食べたが、正直美味しいとはいえない。

 だが房には、まだ実が10粒以上残っている。

 ローズは迷った末、山葡萄を袋に入れた。 

「おぉ、持ってくのか」

「このまま捨てるのはもったいないから」

「捨てても山の動物が食ってくれるだろうがな」

「でも、加工したら美味しいんだよね?」

「そうは言ったけどよぉ。今ンとこ干し葡萄にしかできねェぞ。長持ちはするだろうが」

「焼いたら美味しい?」

「どうだろうな。ジャムにする時加熱するが、砂糖が要るしな……」

 このように2人は、山葡萄の調理方法についてあれこれ考えていた。

 そうしていると…。

“カサッ”

 近くの茂みが、小さな音を立てた。

 ローズとネーロは、それを聞き逃さなかった。

「ッ!?」

「なんだ〜?」

 ローズは剣に手を掛け、ネーロは身構える。

“カサッ…カサカサ…”

 だんだん音が大きくなってくる。

 やがて音の主が、茂みから姿を現した。

「…?」

「はぁ…?」

 出てきたのは、ネーロと同じくらいの大きさの小動物だった。

 ススキ色で長い垂れ耳の、猫のような顔。

 その額には、紫に輝く宝石が埋め込まれていた。

「モンスター…?」

「こりゃぁ……」

 2人の目が、その生き物に釘付けになる。

 全身ボロボロのその生き物は、ふらつきながら前を歩く。

 そして、ローズとネーロの目の前で倒れた。

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