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3-3

「……御礼、ですか?」

 急な申し出に、ローズは目をパチクリとさせる。

「はい♪」

 王女ルチアは、柔和に笑って返事した。

「クルッポー♪」

 彼女の肩に乗る白い鳩も、歓迎するように一声鳴いた。

 先程から、頭が追いつかない。

 自分が助けた人物が一国の王女で、助太刀した騎士達はその護衛。

 見返りなんて求めていない。

 助けただけで、そのまま去るつもりだった。

 まさか王女直々に、こんなことを言われるなんて…。

「いかがされましたか?」

「あっ、…えっと……」

「いいじゃねぇか」

 答えに迷っていると、ネーロが横から口を出した。

「ローズ、ここは甘えとこうぜ」

「ネーロ…でも……」

「1日くらいは王族の世話になるのもいいだろ。高級料理にデカい風呂、温かい毛布が待ってるぜ〜」

 ネーロは謎の誘惑をする。

 ローズはそれには乗らず、首を横に振った。

「流石に悪いよ…」

「そんなことはございません。是非ともおもてなしさせてください」

 今度はルチアが食い気味にそう言った。

 ローズの背中を汗が伝う。

 一国の王女に誘われてしまっては、簡単には断れない。

「ご心配なく。ご宿泊なら我が城をご利用ください。客室は多くございます故。ディナーもご用意させていただきます。御恩は必ず返す。我が一族の方針でございます」

「えぇと……」

「ほらほら、王女様もこう言ってるぜ。王族の好意を無碍にするのは逆に失礼ってモンだ。それに、いつモンスターが襲ってくるか解らねぇ森に泊まるよりはマシだろ?」

「……」

 ネーロとルチアに挟まれ、甘い言葉を浴びせられる。

 これによって、ローズはついに観念した。

「それでは…お言葉に甘えて……」

 ローズは遠慮がちにそう言った。




 しばらくすると、新しい馬車が数台走ってきた。

 ローズとネーロは、ルチアの案内でそのうちの1つに乗った。

 馬車の中には、木製のベンチのような椅子が2台と、その間に長方形の机。

 まるで個室のようだった。

 ローズとネーロ、それからルチアと白い鳩。

 彼女達は、向かい合うように座った。

 それから数分後、馬車はゆるりと動き出した。

「ローズ様は、今お幾つですか?」

「14…です…」

「14歳ですか!?まだそんなにお若いのに、お1人で旅をされているのですか!?凄いです!」

「おいおい1人じゃねぇよ。1人と1匹な」

 ローズの隣で寝そべるネーロが、不満げに言った。

 ルチアは興味深そうに、ネーロを見つめる。

「ネーロ様は猫ちゃんなのに、言葉を話せるのですね。お話ができる猫ちゃんと会うのは初めてです」

「まぁな。世界中で俺だけだろうよ。ちなみに、俺の方がローズより歳上だからな。年長者としてローズにいろいろ教えてやってんだ」

「ネーロ様、ご立派ですね!」

「だろ?」

 ネーロは得意気に胸を張った。

 その自慢話を聞き流しつつ、ローズはチラリとルチアの肩に乗る白い鳩を見た。

 この鳩はローズ達に助けを乞い、ここまで連れてきた。

 出会い始めは忙しなく鳴き回っていたのに、今ではルチアの肩の上で目を閉じている。

 シュッと伸びていた首をしぼめていて、丸くなっている。

 どうやら眠っているようだ。

「あぁ、この子ですか?」

 ローズの視線に気づいたルチアが、白い鳩の頭を指で撫でた。

「この子はクラウド。私のお友達です」

「クラウド…。良いお名前ですね」

「ありがとうございます。この子、とても賢いんですよ。どんなに遠くへ行ってしまっても、必ず私の下へ帰って来られるのです。ね?クラウド」

 ルチアは微笑み、クラウドの頬を優しくつつく。

「クル〜」

 クラウドは、小さく間抜けに一声鳴いた。

 返事というより、寝言のようだ。

「お昼寝の時はずっとこうで、私の肩を離れないんです」

「可愛いですね」

「ローズ〜、俺も可愛いだろ?」

「そーだね」

「思ってねぇだろ」

「フフッ」

 適当のあしらわれるネーロに対し、ルチアはクスリと笑う。

 それからすぐに、申し訳無さそうに右手で口を隠した。

「あぁ、ごめんなさい!つい……」

「いっ、いいえ。お気になさらず」

「つい…なんだよ?」

 ネーロはニヤニヤしながら首を傾げた。

 ルチアは気恥ずかしそうに、頬を赤くした。

「つい、微笑ましいなって、思ってしまったのです。お2人共、仲良しさんですね」

「そう…でしょうか?」

「まっ、俺達相棒だからな!」

「フフフ。ネーロ様とお話できるのが、なんだか羨ましいです。私も、クラウドとそんな風にお話してみたいのです。……あっ、国に入りましたよ」

 馬車の扉に付いた窓から、外の様子が窺えた。

 国の門を抜け、見えてきたのは石畳の道に、煉瓦造りの家々。

 そんな景色の中を、いろんな種類の鳥が通り過ぎていく。

 よく見ると、どの家にも鳥の巣箱が高い位置に設置されていた。

 そして町を歩く人々の多くが、肩や頭に鳥を乗せている。

 中には10羽以上の鳥を連れている者まで居た。

「これは……」

「何処も彼処も鳥ばっかだな」

「はい。この国の人々は、鳥さんと共に生きています。ほとんどの国民が、鳥さんを連れているのです。それが我が国、バードピア王国なのです」

「クルッポー!」

 ルチアは瞳を輝かせながら語る。

 いつの間にか、クラウドも起きていた。

 国中を飛び回っている鳥達…。

 ローズが知っている種類も、何羽か飛んでいた。

 ツバメ、インコ、ヒヨドリ、コマドリ、メジロ、シジュウカラ、アカゲラ、マガモ、ハチドリ…。

 それから、先生の名前にもなっているヒタキ。

 ローズが知る鳥の名前の多くは、先生から教わったものだ。

「この国特有の文化ってところか。……てかよぉ、俺なんかが入国して良かったのか?猫は鳥を食うぞ。猫嫌いの愛鳥家も少なくないぜ」

 ネーロが眉を潜めてルチアに問う。

「おっしゃる通りです。ですが、ネーロ様はローズ様の相棒ですので…。鳥さん達を食べないとお約束していただけるのでしたら、大丈夫です」

 ルチアは指で「OK」のサインを作る。

 その返答に対し、ネーロは呆れたように笑った。

「そういうことなら問題ねぇな。俺、その辺の分別はできてるからよ」

「ネーロが食べないように、ちゃんと見張っておきます」

「だ〜から!食わねぇっつってんだろ!」

「フフフ。お2人共、本当に仲良しなのですね」

「クルッポー♪」

 馬車の中が賑わう。

 つい先程出会ったばかりだというのに、ローズとルチア、ネーロとクラウドは、ほとんど打ち解けていた。

 そして彼女達が盛り上がっているうちに、煉瓦の壁に囲まれた、大きな城が見えてきた。

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