3-1
木々の間から日光が射し込む。
ローズとネーロは、森の中を歩いていた。
目の前の道は、少しだけ登り坂になっている。
足元は落ち葉まみれで、一歩踏むごとに“ガサッ”と音が鳴った。
「ローズ〜、歩き続けてもう2時間くらいか。足疲れてねぇか〜?」
「大丈夫」
「細いのに体力あるなぁ、リュックまで背負ってんのに。流石は元兵士ってとこか?」
「……ありがとう…って言うべき?」
「おぅよ。……話は変わるが、多分このまま歩けば山に入るな」
「……山か」
ローズ自身、山には先生に連れられて何度か来たことがある。
初めの頃は、山が苦手だった。
登る度に息苦しく、寒く、足が重くなっていく。
そんな状況で戦闘訓練までさせてくる先生のことが、当時は鬼にも悪魔にも思えた。
けれど、そう思えたのは自身の未熟さからだと、今なら実感できる。
10歳くらいになった頃には、全てが平気になっていた。
それでも先生には敵わなかったが、確実に強くなれた。
弱かった自分をここまで成長させてくれたことには、感謝しかない。
「先生どうしてるかな……」
厳しくて優しかった先生は、今や行方不明だ。
高い所なら…。
もしかしたら、山頂からなら見つけられるかもしれない。
僅かな期待を持ち合わせて、ローズは歩を進めた。
すると…。
「クルッポー!」
気抜けしそうな囀りと共に、飛んできたのは白い鳩だった。
「何?」
「なんだぁ?」
鳩はしきりに鳴きながら、ローズとネーロの周りをくるくると飛び回っている。
森林や山にも鳩は棲んでいるが、彼らは天敵に見つからないよう、自然に溶け込めるような色をしている。
白い上に鳴きまくる鳩なんて、自然界では異質な存在だ。
「ローズ、コイツ『助けて』って言ってんぞ」
両耳をピクピクと動かしながら、ネーロが顔を上げてそう言う。
ネーロは動物の言葉を聞き取れる。
「助けてって……。この子の家族を?それとも飼い主?」
「さぁな。とりあえず行ってやろうぜ。このままじゃ鳴き声に釣られてヤバいモンスターが来そうだ」
「うん」
「クルッポー!」
鳩は元来た方向へと飛んでいく。
ローズはリュックにネーロを乗せると、思いっきり駆け出した。
林道の真ん中で、その戦いは起きていた。
横倒しになった馬車を、銀の鎧を身に纏った騎士達が守っている。
対するはゴブリンの群れ。
両耳と鼻が尖った緑色の小鬼達が、騎士達が守る馬車を取り囲んでいる。
「ぐっ…!何なんだコイツらは!!」
1人の若い騎士が、苦悶の表現を浮かべる。
他の騎士達も疲弊しきっていた。
ゴブリンなんて、彼らからすれば本来斃すのに苦労しない。
体格だって、騎士の方が大きい。
陣形を崩さなければ、群れだろうと負けることはない。
しかし、優位に立っているのはゴブリンの方だ。
どこからともなく飛んでくる矢が陣形を崩し、その隙にゴブリン達が襲い掛かったのだ。
ゴブリンの攻撃もデタラメではない。
倒れた騎士に対しては3体がかりで殴りつける。
戦える騎士に対しては1体が攻撃を受けた隙に、他のゴブリンが殴る。
明らかに連携が取れている。
それに武器も…。
ゴブリンがよく使う武器といえば、棍棒や石の鎚。
しかし目の前のゴブリン達は、剣や斧、槍、朝星棒等を扱っている。
普通のゴブリンが作れるものではない。
飛んでくる矢もまた、ゴブリンの武器なのだろう。
とはいえ、武器抜きにしても連携が厄介だ。
騎士達は防戦一方だ。
負傷者が多い。
倒れて動かない者も居る。
「くそっ、ここで俺達が倒れたら……!」
若騎士が倒れた馬車に目をやる。
林道を通っている時、複数の投石が馬車と騎士達を襲った。
馬車を引いていた2頭の馬はパニックに陥った。
それから暴れ回って馬車を引き倒し、どこかへ逃げていった。
その後だ。
ゴブリン達が姿を見せたのは…。
馬車の中には、護るべき人が居る。
どうにか隙を見つけて連れ出したいところだが、生憎ゴブリン達に隙がない。
弓使いも居る。おそらく木の上に。
彼女を馬車から出した瞬間、射抜かれてしまうだろう。
打開策が見つからない。
若騎士はこの状況に絶望していた。
”ドスッ“
「ぐあっ!」
突然左肩に激痛が走った。
見ると矢が突き刺さっていた。
いつの間に射抜かれたのだろう。
引き抜くか?
いや、次が来る。
予測した通り、3体のゴブリンが若騎士に迫っていた。
「くそっ!!」
一か八か、片手の剣で向かい撃とうとした。
その瞬間…。
“ズバッ!!”
目の前の3体のゴブリンの体が両断された。
体の断面から血が噴水のように吹き出し、地面に血溜まりを作る。
3体のゴブリンは斬られたことに気づいていないのか、うめき声を上げてピクピクと痙攣している。
騎士達もゴブリン達も、その光景に釘付けとなった。
そんな中、若騎士の目に、先程まで居なかった1人の少女が映った。
こちらに背を向けた少女は、白いセミショートの髪に、墨色の上着と赤いスカートが印象的だ。
しかし、両手には剣が握られており、血が滴っていた。
ゴブリンを斬ったのは、この少女で間違いないのだろう。
少女は騎士達の方を振り返った。
その瞳は、血のように赤かった。
「助太刀致します!」
凛々しく引き締まった声で、少女は言い放つ。
その瞬間、ゴブリン達が一斉に少女に襲い掛かった。




