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2-2

 オウルベアの太い右前足が叩きつけられる。

 砕いたのは、先程までローズとネーロが座っていた岩だった。

 轟音と共に、岩の破片が飛び散る。

 岩の上に置いていたリュックも跳ね上がり、荷物が散乱した。

 オウルベアが殴った箇所は陥没し、蜘蛛の巣のようなひびが入っていた。

 こんな一撃をまともに食らえばペシャンコだ。

 そうなる前に、ローズとネーロは跳んで難を逃れていた。

「うへぇ…。エグいなこりゃぁ。どうするローズ?逃げるか?」

「逃げられるなら逃げるけど…。でも……」

 ローズの視線に映ったのは、散乱した荷物だった。

 収納されたテントに水筒、それからリュックから飛び出た下着やタオル等が飛び散っている。

 荷物に気を取られているうちに、オウルベアが再び襲ってきた。

 四足歩行なのも相まってやたら速い。

 鋭い爪が届く寸前、ローズは横っ跳びで躱す。

 オウルベアは勢い余って、ローズ達より後方へと突っ込んだ。

「荷物が気になるか?」

「今までなら、仕方ないってなるけど…。今は、そうはいかないかも」

 荷物無しで旅を続けるのは厳しい。

 兵士だった頃も、遠征時には充分な荷物を用意して挑んだ。

 滅多に無かったが、危険な状態に陥った時は迷わず荷物を捨てた。

 帰る国があり、国に充分過ぎる蓄えがあるからだ。

 今この瞬間、荷物を捨てて逃走し、国に戻って荷物を整え直すのが一番安全だ。

 幸いソルブレアから、そこまで離れてはいない。

 しかしローズは今、出国した身。

 国王から直々に見送られてもいる。

 ここで逃げて帰れば、王の顔に泥を塗ることになるのではないか。

 そもそも王に情けない姿を見せたくはない。

 ローズにもそれくらいのプライドはあった。

「辞めたけど、兵士としての誇りは捨ててない。襲って来るなら倒す」

「そうだな。何にしても、オウルベアは執念深い」

 オウルベアが地面に爪を立てて止まる。

 この地を覆う草が抉れ、焦げ茶色の土が盛り上がる。

 オウルベアは再び咆哮を上げ、ローズに向かって突進してきた。

「ネーロ、荷物をお願い」

「あ?」

 ネーロの返答を待つことなく、ローズはオウルベアに向かって走り出した。

 流石にこれは予想外だったようで、オウルベアの反応が遅れた。

 ローズは目の前で跳躍。

 オウルベアの頭を踏み抜き、さらに跳び上がった。

 その勢いのまま着地し、オウルベアの後方へと走って行く。

 その先にあるのは、林だ。

 オウルベアも振り返り、ローズを追いかける。

「……なるほど。自分の得意なフィールドで戦ろうってか。…そんじゃあ俺は……と」

 高原に1匹だけ残されたネーロは、散らばった荷物の方に向かった。




 林の中で1本の木を背にし、ローズは振り返る。

 オウルベアはすぐに追いついてきた。

 唸りを上げ、鋭い爪で切り裂きに掛かる。

「見える」

 ローズはさっきと同じように跳躍した。

 空振った爪が木にぶち当たり、大きな傷を付けた。

 ローズが着地したのはオウルベアの背中。

 そこからまた跳び上がり、別の木の太枝に乗った。

 オウルベアは怒り、ローズが居る木に向かって体当たりをした。

 “バキバキバキ……!!”

 その木は軋むような音を立てて倒れた。

 しかし、そこにローズの姿は無い。

 既に別の木に移っていたのだ。

 戦時中と同じ。

 命を刈り取るあの冷酷な瞳で見下ろしていた。

「こっち」

 ただ一言、ポツリと呟く。

 その一言に触発されたオウルベアは、さらに暴れ狂った。

 手当たり次第にローズが移る木を、殴り、切り裂き、へし折っていく。

 しかしオウルベアの手が届く寸前で、ローズは別の木に跳び移っている。

 ローズには、オウルベアの攻撃が完全に見えていた。

 たまに地面に下りては、木の幹間を跳ね回って翻弄する。

 林のような立体物の多い場所では、ローズはほぼ無敵なのだ。

 オウルベアはローズに傷を付けるどころか、一度も触れることができなかった。

 攻撃は全て空振り、木の枝や破片、粉塵だけが舞い上がる。

 時間が進むごとに剥き出しになる、オウルベアの凶暴性。

 それでもローズは冷静だった。

 自分の顔に向かって飛んでくる破片ごと、当たり前のように躱していく。

 流石にオウルベアの体力は無限ではない。

 ずっと暴れ続けることなどできず、動きが止まった。

 舌を出して息を切らしながら頭上を見上げる。

 だが、その視界にはローズの姿は無かった。

 慌てて周囲の木々も確認するが、見つからない。

 気配も感じられなかった。

 逃げられたのか。

 オウルベアがそう考え始めた時、ローズは既に頭上を侵略していた。

 高所から双剣を構え、飛び降りる。

 そこからさらに回転を入れた。

“ザシュッ!!” 

 重量に加え、落下する毎に増した回転。

 その刃で、オウルベアの首を斬り落とすのには充分だった。

“ブシュゥウウウウウウウ!!”

 首を失ったオウルベアの身体が、血を撒き散らしながら転がる。

 そして最後は横に倒れ、痙攣して動かなくなった。

「ふぅ…。勝った……」

 ローズは小さく呟き、頬に掛かった返り血を拭った。

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