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2-1

「……ネーロ、本当にこっちなの?」

「安心しろって。問題ねぇよ」

「何を安心すればいいの…?」

 ローズは眉をひそめた。

 現在ローズとネーロが進んでいるのは、背の高いススキ林の中。

 一本道を進んでいるうちに、いつの間にか入り込んでしまったのだ。

 引き返そうと提案したのだが、「このまま行けばいい景色が見える」とネーロに言われ、そのまま進むこととなった。

 しかし小一時間歩いても、周りの風景はススキだけだ。

「……迷ってないよね?」

「失敬だなぁ。俺の道案内は完璧だぜ?」

「道って言えるの?ここ」

「なんだぁ?そんなに大変か?」

「歩き辛いんだけど……」

 ネーロはススキの間をスイスイと抜けていく。

 それに対しローズは、ススキの茎がいちいち足に引っ掛かる。

 歩き辛いことこの上ない。

 そして、時々穂が顔にぶつかってうざったい。

 さらに種が首を伝って服の中に入り、くすぐったくて気持ち悪い。

 こんな道を歩かせるネーロに、軽く殺意を感じ始めている。

 そんな心中を気にする素振りも見せず、ネーロは先に進んでいく。

「……おっ、着いたぞローズ。来てみろ」

「やっと?」

 ネーロに呼ばれ、ローズはススキを掻き分けながら歩くペースを上げる。

 それからようやく、ススキ林を抜けた。

「……わぁ」

 目の前に広がっていたのは高原。

 青空と白い雲の元、緑の草原が広がっていた。

 その中に黄色やオレンジの花が混ざっており、草原の中だと宝石のように輝いて見えた。

 高原の中心には大きな池ができており、空の色を反射していた。

 そんな高原を賑わせているのは、馬の群れ。

 しなやかな体躯の栗毛の馬達が、草を食べ、水を飲み、駆け回っている。

「ここは”メアープラトー“って言う高原だ。草木に加えて綺麗な水も流れてるからな、馬達が子育てのために集まって来んだよ」

「いい景色…」

「聞いてねぇだろお前」

 日に照らされ、風が吹く度にキラリと光る草原。

 そこを走り回る馬の親子。

 何故かいつまでも見ていられる気がした。

 兵士だった頃、勿論遠征で国外に出ることはあった。

 しかし移動中は馬車の中で作戦を立てたり、戦闘のイメージトレーニングをしていたりで、自然の風景なんて気にすることは無かった。

 途中馬車がモンスターに襲撃されることもあったが、やはり対処に夢中で景色なんて見てなかった。

 もっと外をよく見ておけば良かったと、今になってローズはそう思うようになった。

「池があるだろ?そこまで行ってみようぜ」

 ネーロがそう言い、池の方へと歩いていく。

「あっ…待って……!」

 ローズは遅れて、ネーロの後を追った。




 池のほとりに、大きく平べったくて座りやすい岩があった。

 ローズはそこに荷物を置くと、その横に腰掛けた。

「疲れたか?」

「ちょっとだけ」

 先に座っていたネーロにそう訊かれたローズは、脹脛を揉みながら応えた。

「もうちょいで夕方だ。今日はもうここ拠点にして休むもうぜ」

「うん」

「まずテント建てるだろ?それから火起こして、飯の用意だ。全部揃ってるか?」

「テントは折りたたみ式のがあるよ。火もマッチがあるから大丈夫。食料もある」

「なら良しだ。そんじゃあ早速テント建てようぜ」

「ちょっとゆっくりしてから。……ん?」

 ほんの小さく、蹄の音が聞こえた。

 ローズが顔を上げると、目の前に仔馬が居た。

 人間が珍しいのだろうか。

 尻尾を振りながら、戸惑うローズに顔を近づける。

「なっ…何……?」

「ほぅ…。『見たことない生き物』だとよ。人間に会ったことねぇんだな。ガキは馬でも好奇心旺盛だなぁ」

 ふとローズは、仔馬の顔に手を伸ばす。

 仔馬はその手の匂いを嗅ぎ、頬を擦り寄せた。

 ローズはそれに合わせるように、仔馬の頬を撫でた。

 すっかり懐いているようだ。

「ブルルッ!」

 遠くから、低い嘶きが聞こえた。

 それに反応した仔馬は、ローズの元から走り去っていく。

 着いたのは、大人の馬の傍だった。

 どうやらその馬が親のようだ。

「警戒されてる?」

「そうだなぁ。野生動物は昔から人間の狩猟対象だ。馬は食っても美味ぇし、手懐ければ足になる。あの親馬は人間様の恐さ知ってんだろうなぁ」

 ネーロはそう言いつつ、群れに戻る馬の親子を見送った。

 それから何事も無かったかのように草を食べ始めた。

「まっ、今くらいが丁度いい距離感ってこったな」

「そうだね」

 ローズはしばらく馬の群れを眺めた。

 平和で長閑な風景。

 空気も美味しい。

 こんな時間を過ごすのは初めてだった。

「ふあぁあああ!……眠くなるくらい平穏だな」

「うん。………ッ!!?」

 僅かだが、突然空気が変化した。

 ローズは勘でそれを読み取り、双剣に手を掛けた。

 いくつか木を押しのけるような音がする。

 そして遠くの林を掻き分け、巨大なモンスターが飛び出してきた。

 5メートルを超すであろうその巨獣は、身体は熊だが、頭はフクロウのようだった。

 巨獣は馬の群れに突進していく。

 狙いをバラけさせるためか、馬達はバラバラの方向へ逃げていく。

 やはりスピードなら馬の方が上なのだろう。

 巨獣が狙いを絞っている間に、全頭遠くへ逃げていった。

「まぁ、あんだけ集まってりゃ捕食者も寄って来るわな」

「ネーロ、あの怪物は?」

「フクロウ頭の熊。ありゃぁ“オウルベア”だ。普通の熊よりデカくて凶暴な奴だな。ご覧の通り肉食のモンスターだ」

 オウルベアは辺りをキョロキョロと見回す。

 そしてその視界に、ローズとネーロが入った。

 低く唸りながら、右前足を出す。

「ッ…!!」

「おっと、見つかったなぁ。オウルベアは目が良いんだよ。顔がフクロウだからな」

 ネーロの解説を聞き流しつつ、ローズは双剣を鞘から抜く。

 オウルベアが雄叫びを上げ、ローズ達に襲い掛かった。

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