1-10
「シン…シア……?」
ローズは物事の整理が着かなかった。
いったい今、何が起こっているのか。
自分はドラゴンの攻撃で負傷して動けなくなり、そのまま燃やされる……筈だった。
しかし、そうはならなかった。
炎が届く直前、シンシアが突き飛ばしてくれたから。
ドラゴンの炎が消える。
シンシアの姿は跡形もなく消え、残ったのは黒焦げのハンマーだけだった。
「なん…で…?」
何故シンシアがここに…。
仲間の死にショックを受け、城で泣いていた筈だ。
とても戦いに来れるような精神状態ではないと思った。
だから、無理はするなと言って先に行った。
「来なくても大丈夫」という意味を籠めて。
そもそも、この曖昧な言い方が間違いだったのだろう。
この惨劇を予想して、意地でも「来るな」と言っておくべきだったのかもしれない。
それができていれば、シンシアは犠牲にならずに済んだのではないか。
ローズは再び自責の念に囚われる。
シンシアを殺した張本人が、まだ目の前に居ることも忘れて。
「おいローズ!!しっかりしろ!!殺されるぞ!!!」
物陰から飛び出したネーロがローズの肩に掴まり、耳元で叫ぶ。
しかしローズは反応しない。
ただ虚ろな目で、シンシアのハンマーを見つめている。
ネオン、ハチェット、オリバーが急死したところから始まり、それからグラン、ウィン、ガブリエラの戦死。
さらにダインも行方が解らなくなったことで、ローズのメンタルはほぼ限界だった。
そこへ、最も親しかったシンシアの死がトドメを刺したのだ。
(短時間で仲間がたくさん死んだ。シンシアまで逝っちまったんだ。兵士つってもまだガキだ。ショックで動けなくなるのも無理ねぇが……!!)
ネーロはドラゴンを睨む。
ドラゴンは地面を揺らす程の咆哮を上げていた。
相変わらず、何を求めているのか解らない。
「ここで動けねぇのはヤバいだろ!早く立てローズ!!おい!!マジで死ぬぞ!!」
ネーロは服を掴んで必死に揺らすが、びくともしない。
ここまで長く生きてきたが、力だけはどうにもならなかった。
しかし、どうにかしてローズを動かさなければならない。
ローズは、ここで死んでいいような娘ではないのだから。
そんなネーロの想いを一蹴するかのように、ドラゴンの口が開かれる。
その奥で、炎がメラメラと燃えていた。
「チッ、また火が来やがる!」
悔しいが、自分にローズを動かす手段は無い。
ここまでかと覚悟したその時、遠くから蹄の音が聞こえてきた。
「馬!?誰か来てんのか!?」
ネーロがそう叫んだ瞬間、ドラゴンの視界が一瞬で煙幕に包まれた。
パニックになったのか、ドラゴンは首を振り回しながら火を吹く。
それは全く違う方向へ飛んでいった。
そのドラゴンの横を、栗毛の馬が抜けてくる。
「ローズ!無事か!?」
馬に乗って走ってきたのは、ヨハンだった。
「あいつは……この国の王子か!」
そしてネーロにとって、それは救いだった。
ヨハンは馬から降りると、ローズの元へと駆け寄り、抱き寄せた。
「ローズ!大丈夫か!?しっかりするんだ!!」
「…」
ローズの体を揺らすが、やはり反応が無い。
「王子様よぉ、今は何言っても無駄だ!怪我してるが、それより精神的ダメージがデケェ!」
「君は…?猫が喋った!?」
「今はどうでもいいってんだよ!それより馬でローズ運んでくれよ!一旦ここ離れるぞ!」
「ッ!!……ローズだけか!?他の子供達は!?」
「ローズだけだ!他の奴らはもう居ねぇ!だから早くしろ!コイツまで死なす気か!?」
「あっ、あぁ…解った!」
ヨハンはローズを抱えると馬に乗せた。
「あっ……えっ…?」
「ローズ、私が解るか?」
「…ヨハン……様…?」
「説明は後だ。一旦引くぞ!」
ネーロも馬に乗ったのを確認すると、ヨハン自身も騎乗した。
それからローズを守るような形で手綱を引くと、馬を走らせた。
馬は方向転換し、フルスピードで城の方へと向かう。
その途中、ヨハンがネーロにもう一度確認する。
「……他の子供達、どうなったんだ?」
「……ローズ以外に4人居たが、ダインって奴以外殺された。そのダインも遠くにふっ飛ばされて行方は解らねぇ。後からシンシアも来たが……ローズを庇って死んだ」
「……そうか」
ヨハンは悔しそうに歯を噛み締めた。
ドラゴンの視界から離れたところで、煙幕が晴れた。
『オ”ォ”オ”オ”オ”オ”オ”オ”オ”オ”オ”オ”オ”オ”オ”オ”オ”』
ローズ達を取り逃がしたのが悔しいのか、背後からドラゴンが咆哮を上げる。
「……あ?」
それに対し、ネーロがドラゴンの方を振り返る。
ここに来て、初めてドラゴンの言葉が聞き取れた。
城内にはたくさんの国民が避難していた。
座り込んで怯える者、抱き合って震える者、オロオロと歩き回っている者、衛兵に何やら抗議をしている者…。
国民達の表情は恐怖一色だ。
それもその筈だ。
ソルブレア帝国は戦争では負け無し。
国自体も高い壁に囲まれ、多くの見張りや大砲も付いている。
まさに鉄壁だ。
たからこそ、国民達も安心して過ごせていた。
そんな中での、ドラゴンの急襲。
ソルブレアの過去の歴史にも無いものだった。
「あっ!ヨハン様!」
ソルブレア帝国第二王子の帰還に、1人の国民が声を上げる。
ヨハン、ローズ、ネーロが馬から降りると、人々が集まってくる。
「皆……」
「ヨハン様!ドラゴンは!?」
「もう倒したんですか!?」
「この国は安全じゃなかったんですか!!?」
口々に言葉を飛ばす国民達に、ヨハンは圧倒される。
不安、動揺、恐怖。
言葉の全てにそれらが含まれていた。
「コラ!押すな!」
「離れなさい!」
衛兵達がヨハン達から国民を遠ざける。
「とりあえず、話せよ。王子様」
「あぁ……」
ネーロに促され、ヨハンが前に出た。
「皆、まだドラゴンは撃退できていない。まだ街で暴走を続けている。すまないが、事が治まるまで引き続き城内で待機してくれ!」
城壁は分厚い。
ドラゴンの炎でもびくともしないだろう。
城に居ればひとまず安心だ。
そう…ひとまずは。
「事が治まるまでって…それっていつなんですか!?」
「俺の家、ドラゴンに潰されたんだぞ!!」
「そこのガキ、“王の槍”だよな!?そんなところで何やってんだ!?戦いに行けよ!!」
ドラゴンは未だに暴れ回っている。
炎を吐き散らし、建物を薙ぎ倒し進み、近いうちに城まで辿り着くだろう。
ドラゴンを殺すか追い払うかしない限り、終わりは無い。
国民達の不安は不満へと変わり始め、一部の国民は怒りを露わにしている。
その怒りの矛先が、後ろに居るローズにも向けられた。
ローズが所属する”王の槍“は、ソルブレアの最強戦力。
“王の槍”ならばドラゴンを斃せると、国民や王族、子供達自身も信じていた。
しかし、ドラゴンの予想外の強さに成す術はなかった。
「皆…落ち着いてくれ!」
「“王の槍”は最強じゃないのか!?まさか負けて帰って来たのか!?」
「さっさとドラゴンを殺してよ!!」
「何が“王の槍”だ!!サボってねぇで働けよ!!」
国民達がローズに怒号を浴びせ始めた。
複数の人々による冷たい視線に、時々飛んでくる胸を抉るような言葉。
ローズの体が強張る。
「ハァ……ハァ………」
「ローズ、落ち着け」
ネーロが右肩に乗り、静かに声をかけるが、ローズは落ち着けなかった。
心臓が早鐘を打ち、息が荒くなる。
汗が止まらず、顔も真っ青になっている。
ここに居る人々が、今にでも襲ってくるのではないか。
ローズもまた、そんな不安に駆られていた。
「静まれ!!!!」
このままでは良くないと判断したヨハンが、ローズを庇いながら檄を飛ばす。
普段温厚なヨハンの怒鳴り声に、国民達が静まり返った。
「……ドラゴンは、我々が必ず撃退する。皆には危害を加えさせない。だからどうか、それまで堪えてくれ。我々を、信じて待っていてほしい。私からの頼みだ」
ヨハンは使命に満ちた目で頼み込む。
それが通じたのか、国民達は少し大人しくなった。
「作戦を立てる。戦況を教えてくれ」
「了解致しました」
「ローズ、一緒に行こう」
「……」
ヨハンは近くの兵士達とローズを連れて、城の奥へと歩いていった。
城の廊下で、ヨハン、ローズ、ネーロ、それから10人の兵士が集まった。
「ドラゴンの様子はどうだ?」
ヨハンが早速本題を切り出すと、1人の兵士が答えた。
「ドラゴンは現在東区を破壊しながら、城の方へと進行中。あと1時間後には、城に到達すると予測されます」
「マズイな。あまり時間が無い。国民達の避難は?」
「確認した限り、東区の国民の避難は完了。他の区の国民達も地下等へ避難しております。ただ、多数の死傷者が出ております」
「そうか……。ローズ以外の“王の槍”のメンバーは?」
この質問に対して、別の兵士が答えた。
「“王の槍”は現在7人が死亡、5人が行方不明となっております」
「……つまり、生存が確認できているのはローズだけ…か」
「……行方不明5人?」
ネーロは行方不明のメンバーの数に引っかかった。
(ダイン以外の4人はどこ行った?まさか逃げ出した訳じゃねぇよな?)
ネーロが訝しんでいる間に、あれこれと話が進んでいる。
するとそこへ、1人の兵士が駆け寄ってきた。
「ヨハン様!脱出の準備が整いました!」
「脱出だと!?」
「はい!後のことは我々に任せて、屋上へ向かってください!」
「どういうことだ…!?」
ヨハンは困惑しつつ、屋上へと駆け出した。
屋上には衛兵と、王族達が集まっていた。
当然ヨハンの父である国王と、第一王子である兄のハンスの姿もある。
そして彼らの傍に居るのは、上半身は鷲、下半身が馬のモンスター、ヒポグリフが数匹留まっていた。
「父上!」
ヨハンが息を切らしながら、屋上へ辿り着いた。
国王は呆れ顔で迎える。
「ヨハンか。遅いぞ。何をしていた?」
「父上こそ、これはいったいどういうことですか!?何故ヒポグリフを!?」
「決まっているだろう。脱出するのだ」
「脱…出……!?」
国王のありえない言葉に、ヨハンは絶句する。
「脱出って…。逃げるのですか!?この国を、見捨てる気ですか!?」
「馬鹿者。そんなことをする訳ないだろう。あくまで避難だ。もしも我々が死んだらこの国の政治はどうする?」
「国民達がまだ残っているのですよ!?置いていくのですか!?」
「この国の民と我々、どちらの命が重いと思っているのだ?我々の命に決まっておろう」
「ッ……!!そんな考えの王に、誰が付いて行くというのですか!!?」
国王の横暴さに、ヨハンは怒りを隠せない。
そこへ父を擁護するように、ハンスが口を開いた。
「安心しろヨハン。何も兵士全員を連れて脱出する訳では無い。残りの兵士にドラゴンを処理させれば良い」
「ッ!!!」
「それに“王の槍”だって居る。奴らの強さをお前も知っているだろう?いつもの戦争とは違い苦戦を強いられているようだが、直に片付くだろう」
「……何も解っていないのですね」
ヨハンは震える声で、現状を報告した。
死傷者が多く出ていること。
ドラゴンが未だに暴走していること。
そして、“王の槍”がほぼ壊滅状態にあること。
そこまで聞くと、王族達の顔が真っ青になった。
「なんだと……あの“王の槍”が…!?」
「はい。王の槍”で生存が確認できているのは1名のみ」
「……そやつだけか?」
「ッ!?」
王に指摘されたヨハンは、瞬時に振り返る。
いつの間にか後ろに、ローズが立っていた。
足元にネーロも居る。
ローズは俯いていた。
前髪で隠れて、目元までよく見えない。
「ローズ…来てしまったのか……」
「この使えぬ小娘が!!!」
国王はずかずかとローズの前に迫ると、髪を掴み、その場に引き倒した。
それからローズの体を踏みつけ始める。
「貴様に“王の槍”を名乗る資格があるのか!!!?ここまで育てた恩を忘れたか!!?この穀潰しが!!!あんなドラゴン1匹斃せんのか!!!?弱い貴様らに何の価値があるのだ!!!?応えい!!!!何の価値がある!!!!!?」
「あ”っ…!がっ…!ぐぅ……!」
ローズは必死に体を守る。
痛みを受けつつ、耳が国王の心無い言葉を拾ってしまう。
「このクソジジイ!!!」
ネーロが怒鳴り、国王の足に噛みつく。
「う”ぅ”っ!!」
「何するんですか!!!」
そしてヨハンが国王を取り押さえ、ローズから引き離す。
国王の体は、思ったより簡単に動いた。
「何故役立たずを庇うのだヨハン!!!!此奴のせいで国が滅ぶのだぞ!!!!殺戮兵器に情でも移ったか!!!?」
「あぁそうですとも!!この子はあなた達より、とても魅力的だ!!厳しい環境の中で、笑い合い!競い合い!夢を持ち!必死に生きている!!!」
「この馬鹿息子が!!!」
国王の怒りがヨハンにも飛び火する。
今にも殴り倒したいが、それよりも先に身の安全が勝った。
「……もう時間が無い。皆、脱出するぞ」
「私は残りますよ父上。この国を救ってみせます」
「好きにするが良い」
国王はヒポグリフの方へと歩いていった。
それと入れ替わるように、ハンスがヨハンの前に立つ。
「本当に、お前の言うことは理解できん」
「その言葉、お返ししますよ。兄上」
「……フン。お前にドラゴンを何とかできると思えんがな。精々頑張るがいい」
ハンスもまた、捨て台詞を吐いてヒポグリフの背中に乗る。
それから王族達は、次々とヒポグリフに乗ってどこかへ飛んでいった。
残されたのはヨハンとローズ、ネーロ、それから国王の側近と衛兵達だ。
(……何にしても、私達でやり遂げるしかない……か)
ヨハンが腹を括っていると、ローズがフラフラと立ち上がった。
「おいローズ、大丈夫か?」
近くに寄り添っていたネーロが声をかけるが、届いていないようだ。
ローズはいきなり歩き出す。
その先は、屋上を覆う小壁体。
「ローズお前……!」
ネーロが思った通り、ローズは凹部に足をかけた。
「待つんだローズ!!」
慌ててヨハンが、右腕を掴んで引き戻した。
ローズはヨハンの顔を見上げる。
「ッ…!?……ローズ……」
ヨハンは言葉を失った。
ローズの表情はとにかく暗かった。
目が虚ろで、まるで死人のようだった。
「大丈夫ですヨハン様。ここから飛び降りても大丈夫です。あのドラゴン……斃してきます」
ローズはまた俯くと、今にも消えそうな声で呟いた。
しかしヨハンはそれを聞き逃さかない。
「無茶だローズ!」
「できます……」
「今の君を行かせる訳にはいかない!」
「できますよ。私は強いですから。……“王の槍”……ですから」
「ローズ…!」
「勝てない私に……価値は…無いですから……!」
だんだん声に嗚咽が混ざってきた。
ポタポタと、ローズの足元に雫が落ちる。
国王に存在を否定されたのが効いたのだろう。
本当にもう、精神的に限界だったようだ。
ヨハンは何と言ったらいいのか、解らなかった。
「勝てねぇよ」
唐突に芯の通った声が響く。
ローズが足をかけていた場所に、ネーロが座っていた。
「お前だけじゃ勝てるわけねぇだろローズ。死にに行く気か?旅はどうすんだよ?」
「だって…私は兵士だから……。“王の槍”だから……。戦わなきゃダメだから……」
「だからまた突っ込んでいくのかよ?あの化け物に。さっき何も通じなかっただろうが。シンシアが繋いだ命を無駄にする気か?」
「さっきは、ダメだったけど…。今度はきっと、上手くいくから……。倒せない敵は……居ない…から」
「お前は魔法が使えねぇし、お得意の双剣も壊れた。そんなんでどう勝つってんだ?」
「うるさい!!!」
今までで一番大きな声で、ローズは叫んだ。
「みんな居なくなって!シンシアまで死んじゃって!でも私は生きてて…!早く倒さないといけないのに、ドラゴンが強くて…!!私は“王の槍”なのに…!勝たなきゃダメなのに!もう、どうすればいいのか解らないんだよ!!」
ローズはその場に崩れ落ち、泣きじゃくりながら訴える。
ヨハンはこれを見て、少し安心した。
ようやく年相応の反応を見ることができた。
今までポーカーフェイスに隠れて解らなかったが、初めて本音が聞けた気がした。
「だから言ってんだろ?お前だけじゃ勝てねぇって」
ネーロはニヤリと笑い、ローズの傍に寄った。
「周りを見ろ」
ローズは言われた通り、周囲を見回した。
ヨハンも力強く頷く。
いつの間にか、側近や衛兵達も集まってきていた。
「お前には俺達が居る。一緒に考えようぜ!あの暴れん坊を何とかする方法をよぉ!」
「ッ!!………うん」
ローズは涙を拭い、ヨハンの手を借りて立ち上がった。
「……まぁ、討伐は現実的じゃねぇから追い出す方向でいくぞ。つーわけで、ローズも冷静になったし、単刀直入に訊くぜ?」
ネーロは衛兵達の方を見て言った。
「最近この国にドラゴンの卵、もしくは子供を持ち帰らなかったか?」
「えっ?」
「なんだと!?」
ネーロの突拍子の無い質問に、ローズとヨハンは驚く。
しかしそれ以上に驚いていたのは側近だった。
「なっ…何故それを……?」
「さっき撤退した時、少しドラゴンの言葉が聞き取れたんだよ。断片的だったが、『我が子』ってワードがな。あのドラゴン、何らかの能力で子供の存在を感じ取れるらしいな」
「いったいどういうことだ!?」
ヨハンが詰め寄ると、側近は気まずそうに話した。
「シザーギアとの戦争後、ハンス様がドラゴンの卵を持ち帰ったのです。上手く育て、手懐ければ、ソルブレアの新兵器として使えるとのことで。国王様も賛成しておりました…」
「そんな話…私は知らないぞ……?」
「お前言ったらうるさそうだから隠してたんじゃねぇか?」
「なっ…!?」
「そんで、卵は今どこにあるんだ?」
「地下室です」
側近に連れられ、ローズ達は地下室へと急いだ。
案内されたそこは、左右が牢になっている廊下だった。
牢に入っているのは囚人ではなく、グリフォンやマンティコア、リザードマンやサキュバスといったモンスターや異種族達だった。
環境が悪いのか、どの生物もどこか表情が暗い。
「……趣味が悪いな」
「国王様はこういった種族のコレクターでして…。卵はこちらです」
側近は卵が入っているという牢を指す。
「なっ…!?」
側近が驚きの声を上げた。
何事かと、ローズ達は牢の前へと駆け寄る。
卵が置いてあったであろう藁の上には殻が散らばり、その近くで小さなドラゴンがちょこんと座っていた。
ドラゴンはネーロの顔を見ると、「ぎゃうっ!」と短く鳴いた。
その子竜からは、今街で暴れているドラゴンの面影を感じた。
「孵ってる……」
「間違いねぇ。コイツあのドラゴンの子供だな。ミニチュア版じゃねぇか」
一同が唖然としていると、子竜が近づいてきた。
そして、まだ小さくも鋭い爪が生えた両前足で鉄格子を掴み、揺らすような仕草を見せる。
遊んでもらえると思っているのか、尻尾をフリフリとご機嫌そうに揺らしていた。
「とっ…とにかく、この子を返せばあのドラゴンは飛び去るだろうか…」
ヨハンが思い出したかのように沈黙を破る。
それに対し、ネーロは首を横に振った。
「あのドラゴン、今めちゃくちゃブチギレてるぜ。言葉が一部聞き取れただけでも奇跡だ。そんな状態でこのチビ出しても気づかず踏み潰されるだろ」
「それなら、どうするんだ…?」
「とりあえずだが作戦思いついた。道具次第になるかもしれねぇがな」
ネーロはそう言ってニヤリと笑った。




