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第82話 ワシ、嘘が付けない大名なんで

 永禄13年(1570年)6月。


 関東で北条氏康ほうじょううじやすが亡くなり、葬儀が執り行われているところに次期将軍候補・義栄よしひでの病死と、時を同じくして足利義昭(よしあき)を支持する織田・徳川連合が上洛軍を挙げたとの情報が入った。

 


 義輝よしてる陣営である東国諸国は甲斐武田・越前朝倉も含めて氏康の弔問に来ているため兵は動かせず止めに入れないし、義栄陣営も混乱中で抵抗できないという隙を突いた、見事というしか他にない完璧なタイミングだ。アイツ等はもしかしてだいぶ前から、このタイミングを狙っていたんじゃないだろうか。もしかしたら義栄の死だって暗殺されたという可能性も有り得る。

 

 そしてこのクーデターは成功し、年号を元亀と改めて元亀元年8月、足利義昭は次期将軍として朝廷に任命された。


 それについても多羅尾たらおからの情報じゃ「三好が勢力を伸ばす事を目障りに思ってる公家たちの感情を上手く操って朝廷を動かした」とも聞いている。どうも織田・徳川方にはそういう権謀術数が得意なヤツがいるみたいだな。



「義輝様、この先はどうなさるおつもりですか?」

「まずは様々な思惑入り乱れる京の都を上手くまとめ平定した事、祝着至極しゅうちゃくしごくであると。そしてこれより先、西と東から天下泰平を目指して幕府の舵取りをしていくのであれば、共に手を携えようと書状を送る事としよう」


 朝倉の問いに義輝はそう答え、早速に直筆の書状を書いて京の義昭の元へと送った。その様子はわだかまりなども無く、純粋に弟の快挙を喜んでいるだけに見えたのだが……


 それに対して足利義昭から来た返答の手紙は、決して良い返事では無かったみたいだ。


 

 書状を送って1ヶ月が経った9月中旬、俺達は武蔵松山城へと集められた。信玄は体調不良で重臣の高坂昌信こうさかまさのぶが、遠江は国境警戒の為に岡部元信おかべもとのぶが代わりに来ていたりという部分はあったが、東側では伊達以外ほぼ全ての国主が集まっているようだった。すでに先に着いて義輝将軍の左右に控える朝倉と輝虎の表情は険しく、それだけで良い状況では無いんだなってのがわかる。


「まったくふざけおって! あの生臭助平坊主め! 」

「将軍様、ひとまず落ち着いて下さいませ」


 怒り冷めやらぬという態度で激おこぷんぷん丸な義輝将軍に、子供をあやすような態度の輝虎。なんかすごく意外なモノを見たような気がするが、それだけ平常心では居られなかったという事だろう。


「あ~おほん。《《将軍》》義輝様の為お集まりいただいた各家諸将の皆様には多大な感謝を申し上げる。本日お呼び立てした本題だが昨日、京に入った《《弟君》》の義昭殿より義輝様への書状の返答が届いたので読み上げる」


 場を何とか取り繕うようにそう述べてから書状の内容を読み上げる越前の朝倉。義輝に「将軍」と付け、義昭には付けずに「弟君」と言うのは敢えて、だろう。


 返事の書状の内容は想像していたのを遥かに越える酷いものだった。『自分に臣従する為、すぐに京の都へ挨拶に来れば武蔵松山の城だけは所有を認め【武蔵公方むさしくぼう】として細々と暮らすぐらいは目を瞑っておいてやる。だがそんな者を担ぎ上げた東国同盟の国主どもは全て【朝廷の認めた正当な次期将軍】に対する反逆者だから、今すぐに全ての国を明け渡せ!』 なんて堂々と書いてきやがったのだ。



 これには俺も含め一同激おこ間違いナシだった。信玄と氏康のツートップが生きてたらこの場に雷が落ちるのは確実だったね……あ、信玄はまだ生きてたけど。


「そのような者、今すぐ首を撥ねて晒し首にしてやりましょう!! 」

「左様左様! 我ら東国が一丸となれば10万どころか20万の兵で京の都など潰す事も出来よう」

「そうじゃ! 我らの結束、京の都の公家どもに見せつけてやろうぞ!! 」


 ことに北関東・東北勢は鼻息が荒く、武力行使待ったナシの意見が続出している。たしかに、こっちの方で金に余裕があって麻呂だの雅だの悠長な事言ってるヤツなんて見た事ないもんな……いや、居たけど二人とも粛清されてたわ。


 そんなこんなでこの場に居る一同ほぼ全員が激おこで今にも兵を集め出しそうな雰囲気の中、どうなるかと心配していたら一人の男が口を開いた。関東の雄・北条氏康から跡を継いだ北条氏政(うじまさ)だ。


「皆の衆の怒り、もっともじゃと思う。ワシとて、はらわた煮えくりかえる思いじゃ。

 じゃが考えてみい。大軍をおこして京に上るとして、誰が一番に負担を被るのかを」


 彼の言葉にヒートアップしていた一同が静まり返る。そう、兵として駆り出されている間に農業が出来なくなるのも、京に着くまで10万人×(かける)何日分、何十日分という莫大な食料を賄うのも、全てはこの東日本に住んでいる農民たちの負担になるのだ。


「どうせ奴らにはこの関東へ攻め入って平らげるほどの力など在りはしない。京の都の一帯を制して《《天下》》と名乗っているだけの、視野の狭い連中よ。掛かる火の粉なら振り払うが、無理難題の類ならば構わず、我らは我らの天下を安泰にすれば良いではないか」


 おおうイキナリどうした氏政?そんな毅然とした態度で堂々と。俺の知ってる氏政ってそんなキャラだったっけ?

 

 『関東一帯を治める最大勢力の長である北条の発言だから』というのもあってか、さっきまで戦じゃと喚いていた方々も段々とその発言に納得し始め、徹底抗戦を訴える者は居なくなる。異議を唱える者が居ないのを確かめてから、安堵のため息とともに氏政は言葉を加えた。


「と、いうのが父・氏康うじやすの遺した言葉じゃった。西と東とで揉めた時の事もちゃんと考えておったんじゃ」



 お前が考えた言葉じゃないんかいっ!! いや仮にそうだとしても、ソコは自分の手柄って事にしといた方が自分の株もちゃんと上げられて『北条家も代替わりしたけど万全だね』ってアピールできたやろがいっ!! 


 

「ワシ、嘘が付けない大名なんで」


 どっかの不動産屋みたいに嘘が付けない呪いにでもかかってるのかな?君ってば本当に要領が悪いというか……まあそんなところが良さでもあるんだけど。



「確かに氏康殿の言葉こそ至極まっとうな事。やはり義昭の要求などは無視するとして、我らは我らの天下泰平を独自に目指すべきであったな。このような書状一枚に踊らされるとは、皆には面目ない」


 そう言って頭を下げる義輝。そうして「京の幕府に対する対応を考える会議」は幕を閉じた。



 しかし、それでは済まさなかったのが書状を出してきた相手、足利義昭である。

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