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第80話 新幕府再興

 永禄11年(1568)7月。武蔵国にある難攻不落の要害・武蔵松山(むさしまつやま)城。


 5年前に越後上杉・甲斐武田・相模北条の()三国同盟が結ばれたきっかけとなった城であるこの城に、再度その三者と俺、それから越前朝倉と遠江朝比奈、常陸の佐竹が集結していた。そしてもう一人、2年前から『天下泰平拡大計画』の中心に据える予定だったこの人、足利幕府13代将軍・義輝(よしてる)様が城主の席に座る。


「義輝様、ようやく東国にて天下泰平を唱える準備が整いました」


 北条氏康が場を代表してそう言い、恭しく一本の刀を義輝に差し出した。


 鎌倉公方(かまくらくぼう)足利家に伝わる宝刀・村雨丸(むらさめまる)

 これを持つ者が【鎌倉殿】として東国、つまり今の関東を治める事を認められるといわれる伝説の刀だ。


「この刀、謹んで頂戴する。そしてこれよりはこの松山城を我が城とし、ここに足利幕府の再興を宣言する! 」

「おおおっ」


 義輝の力強い宣言に一同から感嘆の声が漏れる。


 義輝が暗殺されたとされる「永禄の政変」から3年、足利家次期将軍の座は空位のままだった。数年前からその暗殺事件を起こした三好家は、四国阿波に匿った義輝の従兄弟・義栄(よしひで)を次期将軍にと推してはいたが『暗殺事件を起こした者が取って代わる将軍を連れてくるなど正当性は認められない』と朝廷からの反発が強く、継承が認められないままだったようだ。

 

 なのでこの幕府再興宣言が認められれば、ようやく幕府不在の空白期間が終わる事となる。


 しかしこちらの幕府も『京都に幕府御所(ごしょ)(将軍の居城)を置かないなど幕府として認められない』と朝廷に認めてもらえない可能性もある。そのことについて最近加わった佐竹義重(よししげ)から指摘が上がると


「大事なのは朝廷に認めてもらえるかどうか、ではなく世を天下泰平に導くための幕府があるかどうか、という事。

 認めないと言われるのなら我らの治める国々だけでも、民が安心して暮らせる国造りをしていけば良いではないか。それとも、朝廷に認められないなら義重は私を正式な将軍ではない、と非難して争うのか?」


 と義輝がにこやかに返す。すると佐竹義重は平伏し、自分の発言を謝罪した。


 そうなんだよ。誰が認めるとかじゃなくて、そこに暮らす人々が平和に暮らせてるかどうか。それが大事だし、そこ以外は大した意味なんて無いだろ?って思っちゃうのは根っからの戦国大名や守護大名ではない、俺だからなのかもしれないけど。


 

「約束しよう。無益に争いを繰り広げる者の居ない『天下泰平』を、そなたらの築いてくれたこの東国より日ノ本中に広め、貧しく飢える者の無い世を作り上げるために尽力すると。その為の役に立たずして何が天下の将軍か」


 そう言って立ち上がるとその場にいる一人一人と一言ずつ話し掛け、両腕を取ってがっしりと握り合う将軍様。2年前、殺されかけて京都から隠れて逃げてきた頃より随分と頼もしく、自信に満ちているように思える。その地盤を作ったのがこれまでの戦いだったと思うと、誇らしいよ。


 

「寿四郎殿。そなたの戦いは、ずっと見ておったぞ」

「ふぇっ!? 」


 俺の番が回ってきた時、不意に思いがけない言葉が飛び出してびっくりする。え、何処に居たんですか将軍様!? まさか空の上からとか言わないよね?仙人とかじゃあるまいし??


「私は表舞台では死んだことになっていた身。なれば、騎馬の兵に混じって行軍に参加するも容易い事」

「まあもちろんお目付け役は同行させ、戦場で危険な場所には立ち入らせんようにしておったがな。

 義輝様。この義景、肝が冷えましたぞ! 」

「ワシも三船山攻めに同行すると言い出した時は流石に肝が冷えましたわい」


 そう言って笑い合う将軍・朝倉・氏康の3人。いやもうそんなん潜入ドッキリ大成功じゃん! 人が悪いよ!!


「そなたの今回の働き、誠に見事であった。さすが3傑が後を託すに相応しいと認める将よ」


 3ケツって誰だよ?と思って振り向くと信玄・氏康・輝虎がうんうんと頷いている。『3英雄お墨付き』っていつの間にそんな話してたんですかあなた達は!? さすがにそれはちょっと荷が重すぎて胃が痛くなりそうだ。まあ、悪い気分では無いけどな。



 こうして悲願だった義輝の復活(生存)と幕府再興宣言が叶った事を祝って、こういう時の恒例、寿四(寿司)振る舞いタイムとなる。


 今回用意したのは里見家が独占していた房総半島沖で捕れたマグロやカツオ・アジにコハダといった江戸前ではおなじみの魚に、夏が旬のスズキ、この数年で軍監が研究してようやくメニュー化できた煮アナゴなどが並ぶ。

 そして合わせて出される酒はどぶろくでは無く、ようやく量産化に漕ぎつけつつある越後の澄み酒と甲斐の山葡萄ワイン。寿司の変わり種としてはキスの天婦羅を握りで出してみたがそれも好評だった。


「本当に寿四郎殿は次から次へと美味なるものを生み出されて、まさに食の玉手箱ですな」

「ええまあ、そこはやはり美味いものを食べられる事こそ幸せに繋がると思っていますんで」

「良いと思うぞ。争いに巻き込まれず安全に生きられる場所を作る事が武士の一番の役目なら、その次は豊かに飢える事無く暮らせる場を作る事もまた、もう1つの武士の役目ではないか」


 確かに争いごとを無くす為に武力があり、その力こそ武士としての存在意義だとしたら俺の持っているそれは他の者たちよりは圧倒的に弱いだろう。だけど『豊かさをもたらす力』だったらきっと、他の大名に負けないくらい持っていると思う。


 俺はその力を仲間たちと上手く使いながら、まだまだ天下泰平とは言えない戦国の世を少しずつ変えていく。身分関係なく、皆が笑って暮らせる国づくりへ。


( 第二幕 幕府再興編 了 )

お読みいただきありがとうございます。

これにて第二幕まで終幕となります。


ここまで読んでいただいて面白いと

思っていただけましたら感想など

戴けますと大変嬉しいです。


このあと、数話の閑話を挟んで

『世代交代編』の予定です。

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