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第78話 何処から来るか分かってたらソレ、奇襲じゃなくね?

 三船山砦での軍議から6日が経過した。


 翌朝には上総の内陸にある久留里城へと出発した北条氏康と綱成は早々に城攻めを開始し、もうすでに落城させる一歩手前まで追い詰めているという。氏康が率いた兵は4千、それに対して久留里城に籠る敵は3千。

「城攻めには籠城する兵の3倍の兵力を必要とする」のが定石と言われているのに、その半数にも満たない人数でのそれは凄まじい戦果だ。もちろん、35年にも渡って戦の先陣で戦い続けてきた氏康と綱成だからこそだとも思うが。


 そして房総半島の先、稲村城へと進軍した氏規たち水軍衆も昨日、安房に残る房州水軍の半数を打ち破り上陸を開始したとの報告があった。主力である水軍を失った海辺の城なので、落城するのももはや時間の問題だろう。


 それに対して、佐貫城攻めを任された氏政・康成・俺達の軍勢はまだ攻城を開始できず、苦戦を強いられていた。



 今回目標とする上総・佐貫城は海を臨むなだらかな高台の中腹に立つ城で周りも木々に囲まれてるわけでもない、山城に比べたら比較的攻めやすいとされる城だ。厄介なポイントとしては城の裏手側の方が標高は高いので櫓が落しにくく、逆にこちらの動きは読まれやすいという点。だがそこを上手く使って敵は執拗に小規模な奇襲を繰り返してくる。


 正門から騎馬隊が出てきたと思って迎撃に当たろうとすると逃げられ、雑木林から伏兵が矢を射かけてくる。

 別の時は日が昇り始めるかどうかという早朝、海沿いの漁師たちの小屋から水軍の残党兵が突っ込んできて、対応に追われていると正門からは松明を持った兵士たちが現れ、陣屋に松明を投げ込まれる。

 どの奇襲も大きく兵に損害を与える行動では無いのだけどこちらとしては対処が難しく、奇襲される可能性を潰していくと攻め込むのに兵力を注ぎ込めない、そんな状況。


「くっそ、チマチマと回りくどい! 来るなら来るで正々堂々と出てこい!! 」


 いかにも猪突猛進型の猛将、康成が叫ぶが敵方からの反応は無い。


 そりゃそうだ、こちらの兵数6千に対して敵の兵力は3千から4千程度。わざわざ城を捨てて真正面からぶつかるメリットなんて何処にもあるわけがない。俺が敵だって同じ戦法を選ぶだろう。セコくて武士らしくないって言われたらそれもそうだけど。

 

「せめて何処から奇襲が来るか分かってれば対応のしようもあるのじゃが……」


 氏政さん、何処から来るか分かってたらソレ、奇襲じゃなくね?えぇい、この軍には策を使って状況を切り替えようって軍師は居ないのか!?


 と思ってみたらウチにはそういう人材も居たはずなのだが、一人は船がダメで来てないし、もう一人は風向きが読めるからとかで海戦の方に付いて行っちゃってるそうで。そして三番手の策士、多羅尾に至っては数日前から誰も何も聞いてないまま姿が見えないという状況。まったく、これだから軍師っていうポジションの連中は。


「殿、お待たせいたしました! 」

「多羅尾!? 今までどこに行ってたんだよ?」

「お伝えしたではありませんか?こちらに伝手があると。

 これでもう奇襲に悩まされることはありません! 是非とも正面突破のお下知を」


 いやちょっと、説明が省かれ過ぎてて良く分からないんだが!? それにこの数日の姿を消していたのが敵方に通じていたって可能性だってあるわけだし。


「よし、ならば康成軍を先頭に全軍で正面から当たれ!一気に攻めるぞ! 」


 俺ではなく何故か横で話を聞いていた氏政が全軍前進の指示を出す。


「いや、ちょっと氏政どの、まだ何の説明も……」

「その男は寿四郎殿の信じる大切な部下であろう?部下を信じるが主人の務め。ワシは寿四郎殿を信じておる! ゆえにその男の言も信じるまでっ」

「これでまた伏兵でも出てくるならそれはそれ、だ。突っ込むぜい!! 」


 部下を信じるが主人の務め、か。確かに氏康もそんな事を言っていたな。信じてダメならそん時はそん時、俺の人徳が足りなかったってだけか。


 氏政の合図に康成を中心に騎馬部隊が全身し、徒歩の部隊がそれに続く。正門はすぐには開かず、櫓や塀の上から弓や鉄砲の兵がこちらに攻撃を仕掛けようとしてくるが精密射撃隊とナス天の弓が敵方の攻撃よりも早く、それを制する。特にナス天の矢は塀よりも一段高く狙いにくい位置にある左右の櫓に上がった敵兵を見事に射落としていた。


「開かぬならこじ開けるまで! 石火矢隊、正門に向け一斉射撃!! 」


 今度は中型筒・石火矢で正門に向けてありったけの砲弾をぶち込む。大砲で派手に吹き飛ばすほどの威力は出ないがそれでも、閂が吹っ飛び重い門が数か所は穴が空いて半開きになるのを確認する。


「こっからは俺らの仕事だ! 出遅れずについて来い! そらっ!! 」


 馬の腹を蹴り、康成が馬で駆け出した。負けじと騎馬隊、槍隊共に前進し、大手門からも籠城を観念した敵が飛び出してくる。大手門の手前はたちまち混戦となり、刀や槍の刃が打ち合う金属音と悲鳴か歓声かわからない叫びと怒号で埋め尽くされた。


「全軍離れず一丸となって戦え!我らが一つになれば叶わぬ敵など無い!! 」


 氏政が周囲に大声で檄を飛ばす。そうだ、俺達がちゃんと纏まれば数の多さだけじゃなく、お互いの力を信じあう強さでどんな敵でも圧倒できるハズなんだ。それが義父・氏康の言っていた「連の力」 というヤツなんだと思う。


「俺達も行くぞ!! 」

「全力で殿をお守りします」

「多羅尾の方こそ、死ぬなよ。お前が死んだら親父の方の多羅尾に顔向けできなくなる」


 そう言って多羅尾とお互いを守り合うように気を張りながら向かってくる敵を槍で突き伏せる。そういえば初めてコイツの槍裁きを見る気がするけど中々の動きだ。もしかすると軍略だけでなく武将としてもイケるタイプなのか?


 やがて門が完全に破られ、佐貫城の中へと味方が一気に雪崩れ込む。俺達も我先にと城門をくぐる兵達に混じって城内へと押し入ったが、もう既に城内もハチの巣をつついたかのような大乱戦だった。


「我が策を破る者が北条に居るとは知らなんだ。優柔不断で攻め手に欠く出来損ないの4代目しか居らんと思っていたぞ」

「それ以上、俺の兄貴をバカにしないでもらおうか?」


 当主の居ると思われる上層への侵入を防ぐように立ちはだかったのは里見家の重臣・正木家の生き残りである正木憲時。昨年の戦いで氏政の率いる北条軍を退却に追い込んだ張本人である。

 確かにウチの義兄あには疑う事も策を講じる事も不得意なド直球野郎かもしれないが他人の、それも敵なんかにバカにされるのはやっぱり許せない。


「せいっ!! 」

「やはり突っ込んでくるだけの猪武者か。あの阿呆の弟を名乗るだけある。そらっ」


 俺の繰り出した槍を躱すと柄に向けて何かの袋を投げつける。どういう原理かわからないがソレは衝撃で破裂すると白い粉のような物が飛散し、俺の視界を完全に遮った。


「くそっ、なんだよこれ!? 」

「阿呆め! ここで命を散らすがいい……ぐはっ」


 だが憲時の策はそこまで。目の前を塞ぐ霧のようなものが落ち着き、確保された視界の先には……氏康の構えた槍が、奴の喉を貫いていた。


「ワシの事を愚弄するのは構わん。自分の器など、とうに知っておる。

 じゃが、ワシの自慢の弟の事を愚弄するのは止めてもらおうか」

「おのれ……」

「康成! あとは里見義頼ただ一人じゃ! 任せた!! 」

「おうよ! 任せろ!! 」


 そして上階に康成たちの隊が先行して雪崩れ込むと程無くして、大将と思われる男一人を残して佐貫城は制圧されたのだった。


お読みいただきありがとうございます。

面白いと思っていただけましたら是非とも

応援・コメントなどお願いします。

長い戦いもあと2話の予定です!

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